i trecento passi al paradiso4人と1匹を乗せた車が夜の街を静かに駆けてゆく。石畳を踏みしめる振動が、モデラートのテンポで身体に響く。
窓を開けて、夜風を顔に受ける。街灯の光、まばらに閉じた店のシャッター、バルの喧騒、打ち捨てられた色とりどりのゴミ。活気と眠りの狭間にある街の中、人いきれの合間を駆け抜ける風がひどく懐かしく感じられた。
「あんまり顔出すなよ。不用心だぜ」
そう言われて、ぼくは風が通る隙間をほんの少し残して、窓を閉じた。車は石畳の市街地を抜け、潮の香る郊外へとひた走る。
やがて生々しい街のにおいに代わり、澄んだバラの香りが潮風に交じってほのかに車内を包む。彼らに捧げられた白いバラの香りだった。
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