羽化「緊張してます?」
注射に怯える子供を諭すように、あたしを膝の上に乗せる男は小首を傾げてそう言う。伸ばした腕が腰を抱いて、あたしの身体はじわじわと熱に飲まれていく。
「いいえ」
可愛げのない仏頂面を真正面から睨みつけると、「そうですか」と抑揚の無い声が返ってくる。
あたしの嘘はこいつには通用しない。お気に入りのルージュやチークと同じ、これはあたしのために吐く嘘だ。この男に心を喰われないための。
「あんたこそ、興奮してる?」
「しないんですか?」
おもむろに顔を寄せられ、熱い息がむき出しの喉を撫でた。
「愛する人と1つになるってときに、興奮しない男なんていませんよ」
ゆるやかに微笑んで、柔らかく啄むようにあたしの喉へ口づける。
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