家においでよ「うちに、来ます?」
「え?」
退庁間際、局長室に書類を渡しに来たドンジュがボソリと呟いたのをヨンは聞き逃しそうになって、思わず間の抜けた声を上げた。
「来ませんか?」
「ああ……そうだな」
お互い書類の端と端を持ったまま繰り返される問答は傍から見れば滑稽だろう。
人のパーソナルスペースには土足で上がり込むクセに自分の事となると干渉されるのを嫌がる男が誘っている。
幾度が瞬きを繰り返し、ヨンはドンジュの言葉を反芻した。
「家に来いって?」
言ったよな。
念のため確認すると、男は少し不服そうに頬を膨らませた。
「嫌ですか?」
「い、いや……別に」
外で食事をすることはあっても互いの家の行き来はしたことがなく、ヨンが驚くのも当然だ。
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