ライリー ―君の声が聴こえない。
Act 01
午後8時。最後に店の掃除をこなして良太郎のバイトは終わる。所定の場所へモップを仕舞い、1日使ったエプロンを洗濯籠に放り込んで、良太郎は店二階の自室へと帰ってきた。
店内の破損や戸締りを点検し その日の精算をしてから、やや遅れて店を切り上げる、姉・愛理の経営するカフェは元々 自分たち姉弟の父親が独身時代から喫茶店を営んでいたもので、多少のリフォームは施されたが 生まれた時から暮らしてきた自分たち姉弟の家だった。 けれども不特定多数の客に踏み荒らされる(―という表現はあまり相応しくはないが、) プライベートの半減した この店は、純粋に家族だけを守る一般的な 『家』 とは何処か違うような気がしていた。それは今も変わらない。
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