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    お笑い

    copperzipper

    DONEルチスパ お笑い芸人コンビをやっているふたりの話
     幼馴染たちに口やかましく誘われ、ついてはきたもののショッピングモールはやはり退屈しか売っていない。地下駐車場とショッピングモールを繋ぐエスカレーターが、利用者がいなかろうと健気に働いている姿を眺めながらオレンジジュースを飲んでいたとき、エスカレーターを挟んだ向こう側に備えられていたトイレから男が飛び出してきた。どこもかしこも紫がかった男だった。誰かが炭酸グレープを力強く振り回して躊躇いなく蓋を開けたのかと思うほどの激しさだったが、俺の目は霞むことなく、その男が泣いていることを見つけた。
     男は、その長身痩躯のどこから生まれるのかと首を傾げたくなるほどの膨大なエネルギーを発していた。大股でずんずんと歩き続けてショッピングモールをあとにするつもりだったのだろうが、自動ドアのごく僅かな段差に躓いて転び、歪な大の字の形になって少しの間動かなくなった。真面目で無慈悲なガラスドアが何度も男の足首を痛めつける。再び立ち上がったときには別人の背中になっていた。炭酸の抜けたグレープジュースがよろよろと出ていくのを、俺はオレンジジュースを飲み干しながら見送る。
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