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    トリック

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    PROGRESS青年と女の子とエキセントリックおじの原稿続き初めて悪魔を見たのは本の中だった。その児童書には挿絵がなかったが、実物を見ずとも確かに頭の中で存在した。クラスメイトとうまく会話ができなくても、悪魔とはいつでも友達だった。広大な海を眺め、見晴らしの良い山々に登り、様々な街へと出かけた。悪魔と自由に歩き回れるのは世界を征服したからに違いない。この世界では親からも友人からも気味悪がられることはないのだ。私と悪魔は最強だった。空想は私たちに優しく寄り添った。
     多くの天界・魔界出身者が人間界で暮らすようになった現在では、悪魔学はそれほど忌み嫌われておらず、むしろ相互理解のために積極的に学ぶようにと言われているが、私がまだ幼かった頃、悪魔に向けられた視線は冷たいものだった。人間を誘惑し、たぶらかす悪い存在だとの認識が一般的で、悪魔使いのおじを親は「普通ではない」と言った。おじは不良とつるんでいると思われたのだろうか? おじは母の弟にあたる。名を月影(つきかげ)という。母は時折弟に文句を言うこともあったが、定期的に連絡をとっていたし、奇天烈で変人のおじをそれなりに心配はしていたのだろう。だが、おじの話をするときの言葉の端々に現れる鋭い冷たさを目 2623