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    トルク

    三角のモノ

    DOODLE真八真。吸血鬼パロ。ごはんをきちんと食べないかずおくんを心配して定期的にみにくるさとるくん。
    2020.12.07
    森というのは生命の息づく場所である。鳥が、虫が、獣が、地に着ける足の数だけ生きている。だが、ここにはそういった生き物の気配というのが何一つ見当たらなかった。
     九条館。鬱蒼とした樹木の壁の向こう、突然現れたその館を初めて眼にしたとき、真下は古いホラー映画に迷い込んでしまったような錯覚を覚えた。
     歴史ある建物特有の堅牢な出で立ち。名家の所有する館らしい瀟洒な外見。見る者が見れば美しいとさえ感じるだろうその館はしかし、刑事として数々の凄惨な現場を見てきた真下をもってしても息を呑むほどの異様さを放っている。夏の重怠い、じっとりとした空気の中で風もなく月もなく夜の静寂だけを纏ったその姿はどうしてだか、真下には巨大な棺桶のように思えて仕方がなかった。
     森の奥には吸血鬼の住む館がある。
     昔からここ一体にはそんな噂に事欠かなかった。曰く付きの土地なのか、あるいは暇人が多いのか。真下はそういったオカルトじみた話を信じていなかったし、飲みの席で恐々として語る人間を馬鹿にしたこともある。
     だが。
     真下は九条館のエントランスホールに立っていた。豪奢な装飾の数々を天井照明の淡い光が照らす。中央階段の 1768