夢は一夜とかぎらない　長い間焦がれ続けた者が我の腕の中で安らぐ。こうも気分のよい目覚めがあったとは。ようやく目を開けてくれた嬉しさでつい、朝の挨拶もなしに尋ねた。

『我らは晴れて結ばれたが、人間どもに大々的に知らしめる儀式には何が必要なのだ？』
「お前はアホか」
『アホとはなんだ』

　思わず黒い頭を小突いてふと思う。一言目にアホとは、昨夜のことは夢ではあるまいな。

「あのな、種族が違って、男同士だぞ。お前の言う儀式って結婚式とか披露宴のことだろう？　でもその知らしめられた人たちが反応に困るのが目に浮かぶわ。俺らが互いに信じあって、納得できてたらそれでよくないか？」

　夢でないならよかっ……いやいや、まったくよくないぞ？

『しかしそうでもせねば、いつなんどきお主に手を出す不埒な輩が現れるやも――』

『無理をするのは得意』この旅は、少年から自己肯定感を奪った。
片方の世界では亡くなった者として扱われ、
姿を奪われ、亜人として扱われて。
姿が戻っても、世界の敵として扱われて。
それでも、「大丈夫」と蓋をして。

辛そうな顔は見たくない。
おまえの負担を少しでも軽くしたい。
…だから、俺を頼ってくれ。