コーヒー「いい香りだね、なんだいそれ」

　朝日が差し込むリビング。見慣れたはずの場所に、見慣れぬ男が立っている。
「普通のインスタントコーヒーっスけど……」
　俺はマグカップを机に置いた。
　昨晩、色々と理解の追いつかない出来事が起きた末にウチにやってきた男が二人。
　そのうちの一人、弓親さんはコーヒーが入ったマグカップをもの珍しそうに覗き込んでいる。スーパーで安売りされているただのインスタントコーヒーなのに。
「えーっと……弓親さんも飲みます？」
「じゃあ、遠慮なくいただくよ」
「ちょっと待っててください」
　電気ケトルにお湯は十分残っているので、来客用のコーヒーカップを食器棚から取り出す。
　チラリと後ろを伺うと、椅子に座った弓親さんは卓上に置きっぱなしになっていた雑誌をめくって寛いでいる。本当に遠慮がない。

11/22ヘッズミーティング御子柴くんと玲央くんまとめクソ雑魚パトロール出張版ver2.0（御子柴）

なにそれ。変なの（玲央）

雑魚ガキは黙ってろ（御子柴）

はいはい。ヘッズの時間ももったいないからやるよチビワンコ。（玲央）

低身長雑魚ガキが偉そうにほざくんじゃねーよ（御子柴）

身長の話じゃないって。中身がチビだって言ってんの（玲央）

は？晒す（御子柴）

だからそういうとこなんだってば。（玲央）

意味わかんねーわかるように話せよ無能（御子柴）

あのゴミ拾いの時もツナマヨおにぎり全部食べちゃったしお子ちゃまだね～（玲央）

どう考えても現環境はツナマヨ一強だろ。（御子柴）

みんなはおにぎり何が好き？みんなこのスレッドの外にコメントよろしくね～！（玲央）

おいてめー勝手に話進めんな滅ぼすぞ（御子柴）

俺の彼氏(26歳180↑㎝)がちかんされたってまじ？臭い気持ち悪い。八木は口を噤んでなるべく息を止めていた。
　自分が周りよりも背が高くて良かったとこういう時に実感したりする。
　絶対転勤する。心の中で毎日毎日決意し、そことなく上司にほのめかしているし希望も出しているがなかなか声はかからない。本社勤務なんてろくなことがない。
　なにせ、八木は毎朝毎朝これが大嫌いなのだ。こんなことを続けていたらどうにかなる。
　地下に滞留し電車と共に吹き込んでくるあの生温かい濁った空気も嫌い。
　へんな臭いも嫌い、臭い。喉が痛くなりそう。肺が汚れそう。
自然にかこまれ人混みにも遭遇しない田舎育ちの八木には苛酷な環境だった。
だいきらい、満員電車。なんとかならんか。
老若男女ごった返す地獄。ぎりぎり身体が触れぬか触れないかの距離に人がいる。