ロック・ハワード
Hana
PROGRESS君はペテン師③ ビリー・カーンが片手でサンドウィッチを齧りながら戻ってきたのは、二〇分近く経ってからのことだった。もう片手に三節棍を絡め、酒瓶の入ったバスケットを持っている。
「お前ら、メシは食ったのか?」
「食べてないよ。そんな気分じゃないし……」
「護衛がそんなんでどうするんだよ。空腹で力が出ないなんて、洒落にならねぇぞ」
返す言葉がないボックスに、バスケットから何かを取り出して押し付ける。見ればそれは、スライスしたゆで卵、ハムや野菜がぎっしり詰め込まれたバゲットサンドであった。ロックにも同じもの手渡すと、
「いいか、俺はカインのことは何とも思っちゃいねぇ。振り向かせるところまでは手伝ってやるが、その後はお前達の仕事だ。いいな?」
4519「お前ら、メシは食ったのか?」
「食べてないよ。そんな気分じゃないし……」
「護衛がそんなんでどうするんだよ。空腹で力が出ないなんて、洒落にならねぇぞ」
返す言葉がないボックスに、バスケットから何かを取り出して押し付ける。見ればそれは、スライスしたゆで卵、ハムや野菜がぎっしり詰め込まれたバゲットサンドであった。ロックにも同じもの手渡すと、
「いいか、俺はカインのことは何とも思っちゃいねぇ。振り向かせるところまでは手伝ってやるが、その後はお前達の仕事だ。いいな?」
Hana
PROGRESS君はペテン師② 当時、ボックスの存在を知っているのはグラント唯ひとり——の、はずであった。表向きには。ボスであるカイン暗殺の実行犯を、よりにもよってグラントが匿い、育てているなど、決してあってはならない——はずであった。
グラントがボックスを弟子としたのと時を同じくして、カインの態度に明らかな変化があった。不快感や苛立ちの類いではない。今まで気まぐれに訪れていたカインが、訪問前に必ず「これから行ってもいいか」と連絡をしてくるようになったのだ。ボックスの存在への配慮であることは明らかだったが、何と言っていいかグラントには判別がつかず、短く「ああ」と答えるのが常だった。食事に関しても、成長期の少年に必要であろう分量が加えられたし、届けられるタオルや衣類などもグラントひとりの量ではなかった。
3058グラントがボックスを弟子としたのと時を同じくして、カインの態度に明らかな変化があった。不快感や苛立ちの類いではない。今まで気まぐれに訪れていたカインが、訪問前に必ず「これから行ってもいいか」と連絡をしてくるようになったのだ。ボックスの存在への配慮であることは明らかだったが、何と言っていいかグラントには判別がつかず、短く「ああ」と答えるのが常だった。食事に関しても、成長期の少年に必要であろう分量が加えられたし、届けられるタオルや衣類などもグラントひとりの量ではなかった。
Hana
PROGRESS腐要素ありません。カインと(ほぼ出ないけど)グラントの話です。
君はペテン師① その夜、ハインライン邸の敷地に足を踏み入れた瞬間、ビリー・カーンは喩えようもない違和感を覚えた。いつもであれば、この館の主、カイン・R・ハインラインの護衛を務めるボックス・リーパーが誰何の声を投げかける。時刻は既に、二十二時を回っている。アポイントのない訪問者を見逃すはずがなかった。だが現実にはボックスはおろか、主人と館を守るはずの部下達が、誰ひとり姿を見せない。不自然過ぎるほどの静寂が、この広大な敷地を包み込んでいた。
ビリーは短く刈り込んだ金色の頭髪を振ると、深夜にも関わらず掛けられたサングラスの奥で青い瞳を閉じる。それは一瞬のことで、再び目を開くと歴戦の強者らしい眼光と共に、相棒とも言える三節棍を握る手に力を込めた。
3889ビリーは短く刈り込んだ金色の頭髪を振ると、深夜にも関わらず掛けられたサングラスの奥で青い瞳を閉じる。それは一瞬のことで、再び目を開くと歴戦の強者らしい眼光と共に、相棒とも言える三節棍を握る手に力を込めた。