君はペテン師① その夜、ハインライン邸の敷地に足を踏み入れた瞬間、ビリー・カーンは喩えようもない違和感を覚えた。いつもであれば、この館の主、カイン・R・ハインラインの護衛を務めるボックス・リーパーが誰何の声を投げかける。時刻は既に、二十二時を回っている。アポイントのない訪問者を見逃すはずがなかった。だが現実にはボックスはおろか、主人と館を守るはずの部下達が、誰ひとり姿を見せない。不自然過ぎるほどの静寂が、この広大な敷地を包み込んでいた。
ビリーは短く刈り込んだ金色の頭髪を振ると、深夜にも関わらず掛けられたサングラスの奥で青い瞳を閉じる。それは一瞬のことで、再び目を開くと歴戦の強者らしい眼光と共に、相棒とも言える三節棍を握る手に力を込めた。
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