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    ワヒロ

    ばったもん

    PROGRESS【始まりの春】第三話
    (2021.05.16)
     崖縁工業名物の大量宿題と格闘していた宗一郎は、ペンを置いて大きく伸びをした。
     時計を見ると、あと一時間と少しで今日という日が終わろうとしている。そろそろ寝ようと参考書やプリントを片付けていると、着信を知らせるメロディが控えめに流れ始めた。
     手に取って相手を確認すると父だった。学校が始まってから、一度電話が有って様子を聞かれたが、そのときからまだ半月も経っていない。宗一郎は何かあったのかと少し緊張して通話ボタンを押した。
    「はい。宗一郎です」
     電話の向こうではTVの音らしき雑音が聞こえていた。

    『……ねぇ、慶二郎さん。これ、どうしたらいいの?? え? どのボタン? 受話器のマークが二つあるの』
    『ん? もう通話ボタンは押してあるよ? 呼び出し音が鳴ってるはずだが……』
    『え? そうなの? …… やだ。……ねぇ。何も聞こえないわよ?』
    『見せてごらん。……ん? もう繋がっているな』

     そんなやりとりが遠くに聞こえて口元が緩む。宗一郎の母は携帯電話を所持していない。本人は専業主婦なので家の固定電話だけで不自由は無いと言うが、この手のガジェットにはめっぽう弱いというのも一因だと宗一 7954

    ばったもん

    PROGRESS【始まりの春】第二話
    (2021.04.11)
    モルタルを丁寧に重ね、ブロックを積み鉄筋を横に組んでまたモルタルを重ねてブロックを積む。
     宗一郎としてはあまり器用ではないという自覚はあるので、できるだけ丁寧な仕事を心がけるしかない。
     家主である品の良い老婦人に見守られ、宗一郎が老婦人宅の壊れたブロック塀を補修しているのは、登校途中に出会った浅桐に、ヒーロー活動へ行くとそのまま連れてこられたからだ。
     昨日戦闘のあった地区では、住民達がイーターに壊された塀や庭、道路などの復旧作業をしていたが、驚いたことに作業をしている大半が職人では無く近隣住民だった。しかも作業に出ている住民はご高齢で瓦礫を除けるだけでも難儀している様だった。
    「職人が足りねぇんだよ。毎日の様にどっかしらイーターが壊しちまうからな。どうしてもライフラインや主要施設優先で個人宅ってのは後回しになるもんだ」
     浅桐にしっかり働けよと背を押され、住民の皆さんに若い労働力と大歓迎されたのが一時間ほど前の事。そして宗一郎は今、浅桐が「チヨ婆ぁ」と呼ぶ老婦人宅の庭で新しいブロック塀を積んでいる。
     こうして黙々とブロックを積んでいると、どうしても頭の隅に昨日浅桐に言われたこと 7625