Scent with Love連日の残業で、帰宅はまたもや夜中の２時を過ぎてしまった。

とっくに寝てしまっている筈の彼を起こさぬよう、シャワーを済ませてから、洗濯機のタイマーをセットしようとしたのだが、今朝脱いだTシャツが見当たらない。

洗ってくれたのか？

いや、だったら他のものも洗ってあるはずだろうし。

バスケットに入れたつもりで、入れていなかった？

仕方ない、明日の朝探そう。

明日は久しぶりの午後出勤だから、あと6時間くらいは眠れるかな。

寂しいけど、せめて彼の寝顔を見てから寝よう。

彼を起こさぬように、そっと寝室へ入った時に見た光景は、疲弊して、摩耗しきった私を慰めるには十分過ぎるものだった。


少し丸くなって眠る彼の手元には、スマートフォンが転がっている。

渇き遠く、雨音がする。
重い不快感でヒースクリフの意識は浮上する。雨の日のベッドの中は彼のマナエリアであったから充足感と倦怠感がシーツに引き戻そうとするが、ややあって身体を起こすことにした。じっとりと寝間着がパジャマに張り付く感覚だけならまだしも、喉の乾きは我慢できなかったのだ。サイドテーブルの水差しはすっかり空だった。

「――――」

素足をスリッパに引っ掛けるとふ寝起きの足取りで室内を横断し、ヒースクリフは廊下に続く自室のドアノブに手をかけた。それは思いの外ひんやりとしており、眠気を頭の外へと押し出す助けとなった。
ややはっきりとした思考で、常夜灯が照らす廊下へ一歩踏み出す。遠く、同階のバーからだろうか、年長の魔法使いたちの声が微かに耳に届いた。