二次創作

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ののすけ

供養ルルーシュの記憶を持った男がスザクの記憶を持った男から逃げる話の導入でしたが供養です。あくまでも自分が書く二次創作の転生ものへのアンチテーゼなのでいつか書き上げられたらいいな~。(夢)(希望)逃げなければ。

手元の何もかもを引ったくって、心が現実を拒むより先に脚が動いた。どうして、とスザクが指輪を抜く腕を掴む。鈍色のシルバーがキャビネットに着地し損ね床に転がる。ああ、とそれを見送りながら惜しむ気持ちにも愛おしむ気持ちにもならなかった。心に沸いた焦燥感が逃げろ、走れと頭の中でけたたましく叫ぶだけ。どこに行くんだ、何で外したんだ。スザクの縋る声も掻き消す大音量。
これ以上は堪えられない。既に胸の中から溢れた感情だけがルルーシュの現実だ。スザクの腕を振り払い、どちらのものかわからないシャツを乱暴に羽織った。ルルーシュは勢いのまま、部屋から転がるように飛び出して、錆びた階段を駆け下りる。
アパートの薄い壁の向こうからスザクの声が聞こえる。振り返る余裕はない。そんな惨めな甘さはルルーシュの中には微塵も残っていない。
「ふっ、は……ははははははっ!」
がむしゃらに走っているようで脚はちゃんと自宅の方へと向かっている。こんな時でもどこまでも合理的な己の本能にルルーシュは笑うしかなかった。
最後に見た傷ついた顔のスザクを思い出しながら、彼の前から姿を消す方法ばかり考えている。
スザクのことばかり考えている。
今も、昔も。前も、今も。
スマートフォンは風呂場の底へ沈めた。ただ手放せばいいだけ。ただの一枚の金属板になったそれが見つかったとしても何の意味もない。
部屋中からかき集めた自身の存在の証明はショルダーバッグひとつ分で足りた。
いつかこんな日が来ると予期していたのか。いつかスザクから逃げなくてはならないと。甘い蜜月の日々を重ねながら、その一方でいつでも消え去る準備をしていた自分の醜悪さに、ルルーシュはもう笑うしかなかった。
はじめから彼を裏切っていた。心は彼を求めても、無意識下では彼を拒絶していた。男同士の不確かな関係が嫌になったわけじゃない。そんなことはどうだっていい。周囲の声も世間体も、世界がなんと言おうともルルーシュはスザクを愛していた。
けれど朝目が覚めて、隣で眠る彼を見て湧き上がった感情は愛おしさでもなく、眩い幸福でもない。いつものように口付けようとした唇がスザクと彼を呼んだ。

この男はそんな名前じゃない。自分もルルーシュなんて名前じゃない。
なのに愛した男はスザクで、己はルルーシュなのだと、そこに間違いはないと何かが叫んでいる。そうして自我の輪郭を再び確かめ、ここにいるのは『俺』と『彼』ではなく、ルルーシュとスザクだと自覚したその瞬間から逃亡劇が始まった。

「ナナリー……! ナナリー、ナナリー、ナナリー!」
見知らぬ路地をひたすらに走る。この青空の下には存在しない少女の名を狂ったように叫んで、そして再び絶望する。
脳を蝕んでいく記憶をひとつひとつ確かめてはまた丁寧に絶望する。
ナナリー。ブリタニア。黒の騎士団。ゼロ。ギアス。C.C.。
――誰でもいいから応えてくれ。
俺を知っている誰かに見つけてほしい。俺の名前を呼んでほしい。今の俺を作り上げていたものがガラガラと音を立てて崩れていく。
ルルーシュ・ランペルージとルルーシュ・ヴィ・ブリタニアなんていう知らない人間の記憶に、俺が上書きされていく、他人の記憶で塗り替えられる。
愛した男の名前さえ侵されて。
スザク。
違う、でも。いや、彼はスザク、違う。
わからない、もう、体温も、名前も、思い出も、全てが俺のものだった思い出が、記憶が、身体が、細胞が、この青空さえルルーシュのものになってしまう。
全身が未知の恐怖で震える。止まってはいけないのに、足は竦んで動けなくなる。
逃げなくては。スザクから、俺を壊していく世界から。
緩やかに滅びていく現実と、静かで生温かな地獄から。


暗転1548 文字

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できた眼鏡インテリヤクザの坊ちゃんこと松澤と、幼い頃からお側にいるダメ蔵のその後。(龍が如くオンライン二次創作)深夜。堀田豆蔵は、不思議な気持ちで隣の布団に眠る男の寝息を聞いていた。
 豆蔵が長年お側についていた坊ちゃん──松澤恭平はつい先日野望の果てに全てを失い、二人揃って一からの出直しを余儀なくされた。
 それでも妙に清々しい気分なのは、坊ちゃんの命を救ってくれた春日一番という男の気持ちの良さと、お金ではなくただ自分が坊ちゃんのお側にいたいのだと松澤に伝えることが出来たせいかも知れない。
 松澤自身が内心どう感じているのかは豆蔵には分からないが、彼にも心境の変化があったのだろう。新しい活動が軌道に乗るまでは出費を抑えたいという理由で豆蔵の住んでいた狭いアパートに一緒に暮らし始めたのも、以前の松澤からは考えられないことだった。
 少なくとも特に落ち込んでいる様子もなく早々に新たな金策に動き始める松澤の様子を、豆蔵はかつて幼い日の『優しいお坊ちゃん』に抱いていたのにも似た眩しい気持ちで眺めている。
 坊ちゃんは賢くて優秀だから、すぐにまた資産を増やしてこんなアパートではなく落ち着ける場所に引っ越すことになるだろう。こうして隣で寝息を聞けるなんてことも、あと少しだけのはずだ。
 豆蔵はそう考えながら寝返りを打ち、松澤のいる方を向いた。
 松澤は枕元に眼鏡を置き、買ったばかりの布団をまるで乱さず静かに眠っている。その横顔は、眼鏡をかけていないのといつもの尊大な態度がないこともあり、普段よりもいくらか幼く見える。
「あっしは、坊ちゃんはいつかでっかくなると言いましたけど……今だって立派におなりですよ」
 本心からそう思う。だがさらに、今よりもっと何事かを成し遂げる大きな男にもなるだろう。豆蔵は、その姿が見たかった。
「へへ……こうして坊ちゃんの寝顔を見てると、今でもなんだか励まされやすね……」
 落ち込んだ時に自分の手を取ってくれた幼い頃の優しい松澤の姿と、この街で前を向くことを止めない現在の松澤の穏やかな寝顔が重なり、豆蔵の胸を温かくする。
 口元を緩ませた豆蔵は、改めて寝直そうとごそごそと仰向けになる。
「……豆蔵」
 急に名を呼ばれ、豆蔵は心臓が止まりそうなほど驚いて動きを止めた。
「坊ちゃん、もしかして起こしてしまいやしたかい……?」
「その〈坊ちゃん〉と呼ぶのをおやめなさい。人が寝かけているのにお前がぶつぶつ言うせいで、目が覚めてしまいましたよ」
「すいやせん……!」
 かなり小さな声にしたつもりなのだが、松澤はまだ眠りに落ちきっていなかったらしい。豆蔵は素直に謝罪する。
「それに、人の寝顔を眺めるのも感心しませんね。それだからお前は〈ダメ蔵〉なんですよ」
「し、失礼しやした! 坊──恭平さん」
 名前を呼び直すと、松澤が微かに笑ったような気配がした。
「……ですが、駄目なダメ蔵が私の寝顔程度で励まされるというなら、多少は譲ってやってもかまいませんよ。その代わり、もう私を起こさないように」
 そう言って、松澤はくるりと背を向ける。
「ぼ、坊ちゃん……!」
「起こさないように、と言ったでしょう!」
「へ、へえ! おやすみなさい!」
「……おやすみなさい、豆蔵」
 最後の松澤の小さな声は耳をすませないと聞こえないほど微かで、柔らかいものだった。
 豆蔵は耳に残る小さな声を反芻し、やっぱり坊ちゃんは優しいままだと思いながら眠りについた。1387 文字