【28】Phase XX「ちょ、ちょっと仁王先生、何を……わっ……！」
　仁王は保健室に並んだベッドに向かって柳生の手を引き、ドンとその胸を押した。その反動で柳生はベッドに倒れ込む。
　仁王が無駄のない動作でベッドとベッドを仕切るカーテンをシュッと引くと、四方を壁と水色のカーテンで仕切られた狭いベッドはふたりだけの世界になった。
　呆気に取られて一瞬動作が遅れた柳生が逃げるより先に、仁王はひらりとベッドに飛び乗って柳生に覆いかぶさる。白いシーツのベッドに、柳生の着ている白衣がふわりと広がって、同じく仁王が着ている白衣も、柳生を包み込むように広がった。
　首元までボタンのしめられた柳生のシャツに、ブランド物のシンプルな柄のネクタイが紅く映えていた。きっちりと結ばれたそのネクタイに指をかけて引くと、上質の布でできたそれはしゅる、と微かな音を立てて解けた。

【仁柳】ワードパレットkissよりあまりにも予想外の反応だった。
いつも上から見下ろしてくる、冷静で、少し冷たい眼。慌てた姿なぞ見たことがないから、突然唇を奪ってやったらどういう反応をするか試してみたくなった。
「参謀」
振り向きざま、首を伸ばして顔を近づけて。逃げられないようするりと手を伸ばし、軽く耳朶に触れながら唇を重ねた。
きっと平気な顔をして「ふむ、興味深い」とか言うと思っていたのに。

興奮混じりの熱い吐息に震える唇。
いっぱいの涙を湛えた、潤んだ瞳で俺を見ている。嫌がっている感じはしない。責めるような期待するような、複雑な色。

こいつと知り合ってからかなり経つが、こんな顔はついぞ見たことがない。「達人」と呼ばれる男の、「達人」じゃない顔。