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    憧憬

    yugayuga666

    DONE【小説】憧憬/さとあす
    テキストver.です。

    画像ver.
    https://poipiku.com/7817908/90
    憧憬「最近、すっかり暑くなりましたね。明日ノ宮先生」
     そう言ってぐい、と向かいのソファで麦茶を飲み干す彼の額には確かに、大粒の汗が滲んでいた。
    「そうか、もうそんな季節か」
     正直、小説家という仕事柄、この家から殆ど外へ出ない私にとっては、季節など些末な問題であった。常に空調の効いた室内の温度は一定に保たれ、私から四季という概念を奪って久しい。それでも、彼が──佐藤入間が私の担当編集となってからは、彼の運んでくる風が、言葉が、全てが──鮮やかな世界を見せてくれた。
     それが、私は、嫌いではなかった。



    「そういえば先生、ポストにこんなチラシが」
     傍らへ鞄や上着を置くのも早々に、一枚のいかにもといった光沢紙を机上へ差し出す。他人の郵便物など放っておけばよいものを、と初めは煩わしく思っていたが、付き合いが長くなるにつれ不要なDMの類は勝手に処理してくれていたり、興味を唆る様なものはこうして話題にあげてくれたりと、今では寧ろ有り難い。そんな彼のお眼鏡に叶ったらしい紙きれを覗き込む。それは、色とりどりの花火を背に目がチカチカする配色のゴシック体で『納涼祭』と書かれた、この辺りの自治体が執り行っている夏祭りの知らせだった。
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