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    ぎねまる

    MOURNING初登場前の、苛烈な時代の鯉登の話。わりと殺伐愛。
    過去話とはいえもういろいろ時期を逸した感がありますし、物語の肝心要の部分が思いつかず没にしてしまったのですが、色々調べて結構思い入れがあったし、書き始めてから一年近く熟成させてしまったので、供養です。「#####」で囲んであるところが、ネタが思いつかず飛ばした部分です。
    月下の獣「鯉登は人を殺したことがあるぞ」

     それは鯉登が任官してほどない頃であった。
     鶴見は金平糖を茶うけに煎茶をすすり、鯉登の様子はどうだ馴染んだか、と部下を気にするふつうの・・・・上官のような風情で月島に尋ねていたが、月島が二言三言返すと、そうそう、と思い出したように、不穏な言葉を口にした。
    「は、」
     月島は一瞬言葉を失い、記憶をめぐらせる。かれの十六歳のときにはそんな話は聞かなかった。陸士入学で鶴見を訪ねてきたときも。であれば、陸士入学からのちになるが。
    「……それは……いつのことでしょうか」
    「地元でな──」
     鶴見は語る。
     士官学校が夏の休みの折、母の言いつけで鯉登は一人で地元鹿児島に帰省した。函館に赴任している間、主の居ない鯉登の家は昵懇じっこんの者が管理を任されているが、手紙だけでは解決できない問題が起こり、かつ鯉登少将は任務を離れられなかった。ちょうど休みの時期とも合ったため、未来の当主たる鯉登が東京から赴いたのだ。
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    ふたくら

    DONE那須熊嵐への感謝と解釈を込めました。あの苛烈な攻撃の裏にあったものがこうだったらいいな、という妄想です。
    荒野に火は灯る/那須熊 許せない。
     こぼれた言葉は、自分のものとは思えないほどの激情を孕んでいた。

    「玲、大丈夫?」
     ベッド脇、年季の入ったスツールに腰かけて、くまちゃんは私に尋ねる。そろそろ買い替えようかしら。くまちゃんの長い脚が窮屈そうに折りたたまれているのを見るたびに思うが、遠出できる日が限られているのがもどかしい。
    「大丈夫、心配かけてごめんね」
     くまちゃんが運んできてくれたマグカップを手に取りながら答える。鼻孔を擽るのはほのかな桃の香りで、口に含むと品のある甘さが広がり、喉から体全体を温めてくれるよう。ベッド脇に置かれた簡易テーブルの引き出しにはピーチティーだけでなく他にも色とりどりのティーバッグが揃っていて、その全てが那須隊の皆が持ってきてくれたものだった。ちょっとしたお土産に、と渡されたそれは日を追うごとに増えていき、今や引き出しの一段まるまるを陣取っていて、私はそれを見るたびに嬉しいような恥ずかしいような、くすぐったい気持ちになる。駅ビルの雑貨店で買ってきてくれたものも、私の体では行くことも叶わないであろう有名店のものも、私には等しく大切だ。
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