きみは光のむこう/那須さんお誕生日2022期待を高まらすように静かに漂っていた甘く香ばしい匂いは、オーブンを開けた瞬間ふわっと部屋中に広がって、かわいいあの子はそれに釣られて、とことことこちらに歩み寄ってきた。
「いいにおい、なぁに?」
小首を傾げると細くやわい髪がさらりと揺れるものだからそれがいっそう愛らしく、私はしゃがんで目線を合わせながら答える。
「お誕生日ケーキよ、玲の」
その言葉に玲の瞳はきらきらと光って、おとなしい子だと言われるけど、こんなにも雄弁なのだと私は改めて実感する。
「ももものせる?」
「桃も載せるよ」
立ち上がり、キッチンの上の瓶を手に取って玲に見せる。とろみのあるシロップの中で白桃が揺れる。いつもの桃缶よりちょっとだけ奮発した、百貨店からやって来た瓶。それに釘付けになる玲。語らずともその期待は手に取るように分かって、私もますます気合いが入る。
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