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    読書

    sushiwoyokose

    DOODLEめたふぁ~の読書感想文です 主とルイ エンディングまでの全てのネタバレを含みます 
    主人公の名前は「リンドウ」です。
    彼方へ送る追憶の一束※主人公の名前は「リンドウ」です

    幼少の砌、閉ざされたかの故里で過ごした記憶はひどく曖昧に混濁している。穏やかな風を浴びればほのかな懐かしさが過ぎり、ひとけのない静けさにこれ以上ない安寧を覚えるのは確か。しかし人里離れた森の奥、閉ざされた静かな村を見て胸に滲む感想はといえば御伽噺のようだなんて少し他人行儀なものだ。あるはずの思い出が霞んでいるのは、魂と体の分離があまりに長く続いたせいだろうと説いてくれたのはグルデアだった。どこへでも駆けていく願望を形どった己の記憶に、幼子のまま眠っていた己の記憶が、まだうまく結合し切っていないらしい。
    「よいしょ……っ、と、あいてっ」
    朝露に濡れた草花をかき分け、新緑の空気を胸いっぱいに吸い込んだのも束の間。額に衝撃を感じ、ややあって頭を打ったのだと理解した。呪いから解放され、時を戻した体は遅れた成長期を迎えている。その速度は目覚ましく、昨日はぴったりだったローブが朝起きると丈が足りないなんてザラなことだった。お忍びに出向く際に使っている抜け道も、いくつか通れなくなってしまったものがある。記憶に誘われるようにして潜った木のうろに頭をぶつけたのも、きっと覚えより背丈が伸びてしまっているからに違いなかった。くすくすと微笑むように緑が揺れている。妖精にでも見られたのだろうか、後でガリカに揶揄われなければいいのだが。
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