骨が折れたなら接ぎ、皮膚が裂けたなら縫えば済む話だ。なのに、誰からも見えない場所で身勝手に膿んだ傷だけが治らないでいる。隙間から覗く肉に爪を立てて抉り続けるのは、きまって異母弟の存在だった。
だが、俺に危害を加えようとするなど、勇作は最もかけ離れた人物ではなかったか。今まで言葉を交わすうち感じたことだ。悪い噂を聞くこともついになく、皆が憧れるさまは聯隊旗手にふさわしかった。散漫となりがちな各々の心を、一手に集めて導いていく。
例えば俺の身に何かあったならば、自分のこと以上に案じるのだろう、あいつは。長く歩くうち看過できなくなってきた異変を、勇作に押し付けるにはまるで辻褄が合わない。しかし、幾度も影がよぎることは事実だった。
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