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    8月

    fujimura_k

    過去のを晒す23年8月発行『未明の森/薄暮の海』現パロ月鯉
    本編『未明の森』の鯉登サイドの後日談のような話。発行当時は別冊としてお付けしました。本編をご覧になった後にこちらをご覧ください。
    薄暮の海その海ならば、溺れて、沈んでも構わない。その海ならば―


    あの日から、間も無く十二年が経とうとしている。
    八月二十八日。一緒に花火を見たあの公園で。
    そう約束したあの時、十二年という月日は途方も無いように思えたが、過ぎてしまえばあっという間だった。
    十二年。約束を忘れることは無かった。一日千秋の思いで待ち続けて、その日を目前に控えてふと気付いた。
    日付と場所は確かだが、何時にとは約束しなかった。と。だから何時に行けばいいのか見当もつかなくて、それなら朝からずっと待っていればいいじゃないと開き直ったのは約束の十日前だった。
    待合せには絶対に遅れなく無い。もしも擦れ違いになったりしたら。そう考えただけでゾッとして、遅れずに済むようにと、待合せ場所の近くに前日から泊ることにした。けれども宿は直ぐには見つからなかった。夏休みでホテルが満室、なのではなく、ホテルそのものがその一帯には殆どなかったのだ。どうにか見付けたのは、十二年前には花火が上がっていた、その港近くにある小さなビジネスホテルだった。
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    fujimura_k

    過去のを晒す23年8月発行『未明の森/薄暮の海』現パロ月鯉
    月島がとある理由から未だ幼い音之進を誘拐してひと夏を一緒に過ごす話し。
    後日談の本編である「未明の森」部分です。別記載の「薄暮の海」は本編の後にご覧ください。
    未明の森覚えていて。 想い出して。

    どうか、わたしをー

    あの日々をー




    空港の到着ロビーに大きく掲げられた時計の針は、間も無く午前十時を示そうとしていた。
    事前に聞かされていた到着予定時刻は九時四五分。電光掲示板に遅延の案内は出ていない。定刻どおりに到着したのであれば、飛行機を降りた客たちが、手荷物を受取り、到着ロビーに出て来るのはもうそろそろだろうか。
    学校という学校が夏休みに入ったこの時期、いつも混雑している空港はひと際賑やかだ。
    家族か、恋人か、友人か。到着ロビーには、何処かから来る誰かを待っている人々がひしめきあっている。皆一様に落ち着かない様子で到着口を見守るその姿は、何処か滑稽だ。
    尤も、傍から見れば、俺もそうした一人のように見えているのだろうが。それも、見ている人が居れば、の話だ。恐らくは、この場に居る誰しも、待ち構えている誰かのこと以外は何も気にしては居ないだろう。
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