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    BBC

    fkm_105

    PROGRESS探偵をしている先生と画家のタルの話
    ※1920年代仏が舞台(一部捏造、矛盾あり)
    ※実際の国名が登場します(タ→露出身など)
    ※画家タと作家鍾の推理モノ
    ※シャーロック原典、BBCドラマ版のオマージュ、参考あり
    ※1フラン=200円
    レザネフォル   プロローグ


     受胎告知という題材がある。
     まさにオーソドックスで、かのレオナルド・ダ・ヴィンチですら描いた主題だ。例えば、この主題で描いた絵があったとしよう。その絵をタルタリヤの通う美術大学の全ての教授に見せたとして、彼らが見た途端に嫌な顔をする確率は、雑踏の中で雷に撃たれるよりも低いに違いない。つまり無難というのは便利である。だから、ああやって受胎告知が卒業展の最優秀賞を飾るのだ。
     


     ギャラリーの壁面に掛けられた絵画を眺めながら、タルタリヤは欠伸を噛み殺した。かれこれ三時間タルタリヤはスツールに腰掛けて、ああやって大天使ガブリエルと処女マリアの絵を眺めては、いい絵ですね、などと褒める身なりの良い男女を眺めている。タルタリヤはため息をついて、徐ろに窓外に視線をやった。窓外では昨晩から降り続いた雨が上がり、濡れた路面が雲間からこぼれた光を反射していた。今しがた通り過ぎた婦人のブローチは先月イリヤが発表した新作で、その向こうを歩く紳士の懐中時計は退役軍人に贈られる褒賞品だろう。受付デスクの中に隠したスケッチブックを取り出したタルタリヤは、左手に持った鉛筆を走らせる。路肩のタクシーや雨上がりの路面を写し、道行く人々を写せば、それは大仕事だった。ロマンスグレーの男性が歩く。それはつまり、そのツヤツヤとした飴色の革靴がその一歩ごとに輝きを変え、その男性の服の皺もまた変化した。退屈している暇がない。しかし、不意に窓外を横切った几帳面そうな男が、この時間を終わらせたのだ。木製扉が軋んだ音を立てて開き、かの男の長髪が揺れる。タルタリヤは咄嗟にスケッチブックをデスクの下に隠した。
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