中西
dentyuyade
DOODLE中西弥生と妹の話。こういう男だしこういう妹がいます。兄「向いてねぇのかな」
「なにが」
「剣道」
「あー」
帰宅してすぐ、兄はどかりとソファに腰を下ろして自分と隣り合う。視線は交わらない。ポーズだけはテレビを見ながらの世間話だ。その実、二人ともくだらない芸能人の人生哲学などに意識は向いていないのだけれど。少しの沈黙が気持ち悪くて、もう一度意味もなく母音を吐き出す。今度はやや低いキーのそれに、兄は呆れたように「真面目に聞けよ」と笑った。
「聞いてるけど、真面目に」
「じゃあ答えてくれよ」
「剣道の話だっけ」
「そ、剣道」
知らんがな、と言いたい気持ちもないわけではなかったが、それ以上に珍しく弱気な様子の兄に対しては思うところがある。別に善意でも好意でもない。ただ、家の雰囲気を暗くされるのは困る。わざとらしくため息をついて、できるだけ単調に努めながら「なにかあったの」と尋ねた。兄はどんな顔をしているのだろう。気にならないわけではないけど、確認するほどの遠慮のなさがないわけでもなくて、困る。
2103「なにが」
「剣道」
「あー」
帰宅してすぐ、兄はどかりとソファに腰を下ろして自分と隣り合う。視線は交わらない。ポーズだけはテレビを見ながらの世間話だ。その実、二人ともくだらない芸能人の人生哲学などに意識は向いていないのだけれど。少しの沈黙が気持ち悪くて、もう一度意味もなく母音を吐き出す。今度はやや低いキーのそれに、兄は呆れたように「真面目に聞けよ」と笑った。
「聞いてるけど、真面目に」
「じゃあ答えてくれよ」
「剣道の話だっけ」
「そ、剣道」
知らんがな、と言いたい気持ちもないわけではなかったが、それ以上に珍しく弱気な様子の兄に対しては思うところがある。別に善意でも好意でもない。ただ、家の雰囲気を暗くされるのは困る。わざとらしくため息をついて、できるだけ単調に努めながら「なにかあったの」と尋ねた。兄はどんな顔をしているのだろう。気にならないわけではないけど、確認するほどの遠慮のなさがないわけでもなくて、困る。