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    ヒョウ

    copperzipper

    DONEヒョウスパ♀ 自分メモ  !女体化
     町で一番小さな産婦人科の前に町で一番大きな高校の学生服を着ている少年が座っている。種を落とそうと俯く一本の向日葵の下で、レンズもフレームも分厚い眼鏡の奥で黒く大きな目を輝かせながら蟻の行列を眺めている、そんな少年だった。蟻は昨日死んだ蝉を一口ずつ咥えて飽きもせずに粛々と巣まで運んでいる。アスファルトで隅々まで埋めたはずのこの道のどこかに蟻の巣の入口が存在し、すぐ足元で今も孵化しているはずの幾多の蟻の幼虫が餌を待っているのかと思うと不気味であるが、体育座りをして観察する少年に持ちかけたところできっと同意は貰えそうもない。蟻の献身的な働きによりいまや殆どの肉も体液も失い、しかし翅と腹以外の外殻はほぼ欠けることもなく寧ろ黒黒とした艶も残ってうつくしいまま、二度目の空蝉となりつつあるこの命にも手を合わせることはないこの少年は、何かを訴えるように至るところでしつこく鳴いている蝉の声にも、すっかり黄色をくすませて老いた目線を向けてくる向日葵にも、世界中の悪を見張らんばかりに厳しく照りつけてくる太陽にも、怪訝そうに少年を一瞥しては去っていく大人たちの足音にも、スポーツドリンクを片手に遠巻きに少年を見つめているわたしにも、やはり関心がなさそうだった。ただ小さな蟻たちが歪な線を長く長く描いているのをにこにこと見ている。伸びた髪と皺の浮いた制服といやに派手な柄のマスクで肌という肌を隠し、しかし汗を掻いている様子すらない。この世のものではないのかもしれない、と思いついてしまった。なにせ産婦人科の前にいる少年だ。産まれることを望まれず口ができる前に殺されたはずの赤子が実は生きていてすくすくと育っている。意外にも恨み辛みをこぼさず、誰にも祝福されていないはずなのに割と楽しく健やかに生きている。馬鹿な妄想だ。大方、母親か姉の付き添いでやってきたのを退屈で外に出てきたのだろう。
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