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    フェリー

    palco_WT

    MEMO水王ちゃん♀一泊二日フェリーの旅ドラの音は出航の合図ではなく、出航時間が近づいたので船客と乗組員以外は船から降りろという意味だと聞く。聞きなれないその音が響いた数分後、控えめで上品な案内の声が改めて港から経つことを知らせた。
     奮発しただけあって、自分の古びたアパートなどよりも遥かにたっぷりとした広さと居心地の良さで出迎えてくれたスイートルームの客室の設備を確認していた水上は、手首の時計をちらと確認した。予定時間より三分遅れだ。
    「出航だって、みずかみんぐ」
     アナウンスを耳にした王子はぱっと顔を輝かせ、良人たる水上の袖をじゃれる仔猫がひっかくようにくいくいと引いた。
    「どうせなら港を離れるところを外で観ようよ」
    「外がええなら、そこからプライベートバルコニーに出れるで? スイートの特典やで」
    「もう、きみってばそういうんじゃなくてさ! いいからほら、さっさとカードキー持って」
     水上が扉の内側に挿したカードキーを手に取るのを確かめてから王子は、問答無用とばかりにその腕に自らの腕を絡めると、引きずるように船室を出て行った。はしゃぐ王子にこれだけは、と水上は手荷物の中からマフラーを何とか掴んで、その首と頭をぐるぐると巻 1390