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DONEチョコレイトとぼくたちのレシピ ぼくはね、と王子は紙袋の中身をテーブルの上に広げながら、しみじみと告げた。
防衛任務を終えて、作戦室には王子と蔵内のふたりの姿しかない。
「以前から思ってたんだけど、特別な日だということについては異論はないけれど、一年に一度のチャンスだということには異議ありって」
「ん?」
こちらも色とりどりの包装に包まれたひとつひとつにつけた付箋を確かめながら取り出していた蔵内は、含みのある物言いに少しばかり首を傾げて王子の言葉を脳内で繰り返す。と、自然にメロディーがそのフレーズに伴う。それはいままさに王子と共にテーブルの上に開陳されつつある、二月のスイーツ売上トップに君臨する甘いものに関する歌だ。
8176防衛任務を終えて、作戦室には王子と蔵内のふたりの姿しかない。
「以前から思ってたんだけど、特別な日だということについては異論はないけれど、一年に一度のチャンスだということには異議ありって」
「ん?」
こちらも色とりどりの包装に包まれたひとつひとつにつけた付箋を確かめながら取り出していた蔵内は、含みのある物言いに少しばかり首を傾げて王子の言葉を脳内で繰り返す。と、自然にメロディーがそのフレーズに伴う。それはいままさに王子と共にテーブルの上に開陳されつつある、二月のスイーツ売上トップに君臨する甘いものに関する歌だ。
リリ小屋
DOODLEサッポロいちばん味噌ラーにちゃんと白菜とにんじんをいれるくら〜ちくん、というツイートを拝見して滾った結果深夜の味噌ラーメンに蔵内は白菜とにんじんを入れる良い匂いがして、目が覚めた。キッチンの方が仄かに明るくて、隣で寝ていた筈のクラウチの形に布団が空いていた。ベッドを降りて、少し冷えた床に足を下ろす。ガウンを着て向かうと、クラウチがコンロでお湯を沸かしているところだった。
「なにしてるの?」
ぼんやりしながら尋ねると、起きたのか、とクラウチが言って、まだ眠気でぽやぽやしているぼくの額に口づけた。
冷蔵庫から白菜とにんじんを出して、クラウチがざくざくと手際良く細切りにして、鍋に放り込む。それからしゃがんで、シンク下に纏めて買ってある袋ラーメンを取り出しかけ、
「…おまえも食うか?」
と聞いた。頷く。
「食べたいな」
分かった、と言ってクラウチは二袋取り出し、シンクを閉めた。青白い蛍光灯が、クラウチの整った横顔を照らし出している。
1079「なにしてるの?」
ぼんやりしながら尋ねると、起きたのか、とクラウチが言って、まだ眠気でぽやぽやしているぼくの額に口づけた。
冷蔵庫から白菜とにんじんを出して、クラウチがざくざくと手際良く細切りにして、鍋に放り込む。それからしゃがんで、シンク下に纏めて買ってある袋ラーメンを取り出しかけ、
「…おまえも食うか?」
と聞いた。頷く。
「食べたいな」
分かった、と言ってクラウチは二袋取り出し、シンクを閉めた。青白い蛍光灯が、クラウチの整った横顔を照らし出している。
リリ小屋
DONEエワの無配でした。Dom/Sub時空の蔵王。蔵内も王子も、いざ相手に何かをあげるとなったらちょっとバグってたら可愛いなって思います。
一般的に見たら重たいことでも、蔵王はお互いにとっては割とライトに受け止めあえる関係かもしれないな、という妄想をしています。
お気の済むまで「王子、ネクタイを贈ってもいいか?」
「うん?」
クラウチと付き合うようになってからというもの、細々とした贈り物が増えた。ような気がする。といっても本当にちょっとしたものだ、ぼくがいつも好んで買ってる紅茶のペットボトルや、買おうか悩んでいた本、ブックカバー、靴下、スマホのストラップ型リング。靴下を贈られたときは正直言って何で? と思ったけど、お前に似合いそうだからと言われて有り難く貰っておいた。今日はその靴下を履いて出掛けている。
急激に冷え込んで、温かい秋冬の服が欲しくなったところだった。クラウチとぼくは三門市から都心に伸びる路線に乗って、買い物に来た。のどかな三門市から比べると高層ビルが立ち並ぶ風景はいかにも都会めいている。このマップならグラスホッパー必須だろう、と考えてしまうのはいわゆるゲーム脳に近いんだろうか、それとも。
3215「うん?」
クラウチと付き合うようになってからというもの、細々とした贈り物が増えた。ような気がする。といっても本当にちょっとしたものだ、ぼくがいつも好んで買ってる紅茶のペットボトルや、買おうか悩んでいた本、ブックカバー、靴下、スマホのストラップ型リング。靴下を贈られたときは正直言って何で? と思ったけど、お前に似合いそうだからと言われて有り難く貰っておいた。今日はその靴下を履いて出掛けている。
急激に冷え込んで、温かい秋冬の服が欲しくなったところだった。クラウチとぼくは三門市から都心に伸びる路線に乗って、買い物に来た。のどかな三門市から比べると高層ビルが立ち並ぶ風景はいかにも都会めいている。このマップならグラスホッパー必須だろう、と考えてしまうのはいわゆるゲーム脳に近いんだろうか、それとも。
リリ小屋
DONE婚約指輪を見せつけられるモブとくらおう窓際の彼 木曜三限。
退屈な第二外国語の授業で、彼はきまって窓際の、光が当たる暖かくて気持ちよさそうな位置に座っている。
俺の席は、彼からだいたい三、四列ぐらい後方だ。彼の左斜め後ろに座っているから、いつも彼の憂いを帯びた左半分の顔だけが、見えている。
友達はいたりいなかったりするようだ。ときどき、食堂で彼が誰かとランチしている姿を目にする。でもこのフランス語の授業を彼の友人は誰も取っていないのか、ただいつも、ぽつん、とつまらなさそうに座っているばかりなのが印象的だった。
明るい色の髪に、角度によって少し色を変える、ターコイズブルーの瞳。それが、俺が知る彼の全てだ。ああ、でも、誓って言う。俺は特にゲイじゃない。それに、彼は綺麗な顔立ちに反して意外と背が高い。授業終わり、プリントを出しに行くために立った彼の、予想以上のガタイの良さにちょっとびびったのも正直ある。夏だからか、剥き出しになった腕は割とかなりマッチョで、俺はちょっとぎょっとした。それで、めちゃくちゃ男だな、と思ったし、なんかこんな綺麗な顔してこんなに体格いいのかよ、と舌打ちしたくなるような気分にもなった。
3639退屈な第二外国語の授業で、彼はきまって窓際の、光が当たる暖かくて気持ちよさそうな位置に座っている。
俺の席は、彼からだいたい三、四列ぐらい後方だ。彼の左斜め後ろに座っているから、いつも彼の憂いを帯びた左半分の顔だけが、見えている。
友達はいたりいなかったりするようだ。ときどき、食堂で彼が誰かとランチしている姿を目にする。でもこのフランス語の授業を彼の友人は誰も取っていないのか、ただいつも、ぽつん、とつまらなさそうに座っているばかりなのが印象的だった。
明るい色の髪に、角度によって少し色を変える、ターコイズブルーの瞳。それが、俺が知る彼の全てだ。ああ、でも、誓って言う。俺は特にゲイじゃない。それに、彼は綺麗な顔立ちに反して意外と背が高い。授業終わり、プリントを出しに行くために立った彼の、予想以上のガタイの良さにちょっとびびったのも正直ある。夏だからか、剥き出しになった腕は割とかなりマッチョで、俺はちょっとぎょっとした。それで、めちゃくちゃ男だな、と思ったし、なんかこんな綺麗な顔してこんなに体格いいのかよ、と舌打ちしたくなるような気分にもなった。
リリ小屋
DOODLEらぐさんからのネタ。英駐在の王と独駐在の蔵が仏でデートする話。たとさんがケルンがいいとツイートしていらしたので、そ、それだ!と思いケルン在住にしました。英駐在の王と独駐在の蔵が仏でデートする話「週末の予定は?」
「空いているよ」
古くは国際電話だったんだろう。時代というのは便利なものだ。
ぼくたちはAirpeという通話アプリを通じてほとんど毎日のようにビデオ通話をしていた。これではまるでオンライン同棲だ。でもオンラインじゃ実体に触れられない。そこにクラウチの気配を感じているのに、触れられない、のはどうにももどかしさばかりを齎していた。
ロンドンの夏から秋にかけては、唯一爽やかな晴れ間が覗く季節である。王子はBBCプロムスをほぼ毎日のように立ち見で観るんだ、と意気込んでいたにも関わらず、プロムスの公演時間に間に合ったのはごく僅かだ。仕事というのは大概、無情なものだ。ぶつくさと文句をぶつける王子に、そこにWeTubeがあるから聴けるだろう、と何気なく言ったせいで、蔵内はカンカンのお冠になった王子を宥めるのにずいぶん苦労した。
2997「空いているよ」
古くは国際電話だったんだろう。時代というのは便利なものだ。
ぼくたちはAirpeという通話アプリを通じてほとんど毎日のようにビデオ通話をしていた。これではまるでオンライン同棲だ。でもオンラインじゃ実体に触れられない。そこにクラウチの気配を感じているのに、触れられない、のはどうにももどかしさばかりを齎していた。
ロンドンの夏から秋にかけては、唯一爽やかな晴れ間が覗く季節である。王子はBBCプロムスをほぼ毎日のように立ち見で観るんだ、と意気込んでいたにも関わらず、プロムスの公演時間に間に合ったのはごく僅かだ。仕事というのは大概、無情なものだ。ぶつくさと文句をぶつける王子に、そこにWeTubeがあるから聴けるだろう、と何気なく言ったせいで、蔵内はカンカンのお冠になった王子を宥めるのにずいぶん苦労した。
リリ小屋
DOODLEラリーパロ蔵王愛と狂気のタイムトライアル人のいない道を跳ねるように、滑るように車体が駆け抜けてゆく。
悪路をサスペンションが吸収してゆく。
明かりのない道を、ヘッドライトが頼りなく少しだけ照らし出す。
エンジンの唸りが、静かな夜の林道に荒々しく響く。
ラリーという競技は、国内では多く、夜中に人の住んでいないような道を使って走る。
街灯なんて当然ない。
曲がりくねった道、知らない道を走ってタイムを競う。
視界なんて当然、無い。ガードレールすらない道もある。
一歩間違えれば崖から車は転落してしまうだろう。
そんな道を、まるで狂気のようなスピードでドライバーはアクセルを踏む。
ただ、隣にいる己のコドライバーだけを信じて。
何メートル進み、どちらにどう曲がるのか。
3631悪路をサスペンションが吸収してゆく。
明かりのない道を、ヘッドライトが頼りなく少しだけ照らし出す。
エンジンの唸りが、静かな夜の林道に荒々しく響く。
ラリーという競技は、国内では多く、夜中に人の住んでいないような道を使って走る。
街灯なんて当然ない。
曲がりくねった道、知らない道を走ってタイムを競う。
視界なんて当然、無い。ガードレールすらない道もある。
一歩間違えれば崖から車は転落してしまうだろう。
そんな道を、まるで狂気のようなスピードでドライバーはアクセルを踏む。
ただ、隣にいる己のコドライバーだけを信じて。
何メートル進み、どちらにどう曲がるのか。
リリ小屋
DONE音楽科パロディ。六穎館高校に音楽科があったら〜というゆるふわ設定です。その音に恋をするフォルテ。鮮やかでキレのある音。尾を引くようなデクレッシェンド。繊細なピアニッシモ。
振り返れば、蔵内はいつでもピアノの音色を絶賛された記憶ばかりが積み重なっている。文句の付け所が無い。完璧だ。計算された音色だ。
そうして、最後はどこかで必ずこう締めくくられる。
──でもね、優等生すぎて少しだけ、退屈なのよね。
「蔵内くん、今日一緒に帰らない?」
「悪い、今日は学外のレッスンで」
「ううん良いよ、頑張ってね!」
蔵内和紀。六穎館高校音楽科3年。国内のコンクールでは敵無しとまで言われていたが、国際コンクールでは中々成績振るわず。その蔵内は8月、2ヶ月後にプラハで行われる国際コンクールに向けて、三度目の正直を果たすべくレッスンの予定を詰めていた。
2851振り返れば、蔵内はいつでもピアノの音色を絶賛された記憶ばかりが積み重なっている。文句の付け所が無い。完璧だ。計算された音色だ。
そうして、最後はどこかで必ずこう締めくくられる。
──でもね、優等生すぎて少しだけ、退屈なのよね。
「蔵内くん、今日一緒に帰らない?」
「悪い、今日は学外のレッスンで」
「ううん良いよ、頑張ってね!」
蔵内和紀。六穎館高校音楽科3年。国内のコンクールでは敵無しとまで言われていたが、国際コンクールでは中々成績振るわず。その蔵内は8月、2ヶ月後にプラハで行われる国際コンクールに向けて、三度目の正直を果たすべくレッスンの予定を詰めていた。
リリ小屋
DONE9/18吾が手29 東5ホール ネ37b蔵王のもだもだ両片思い小説本です。
文庫サイズ/256P(本文) 頒価¥1,000
こちらはサンプルにつき全年齢ですが、本はR18のため年齢確認書類のご提示にご協力をお願いいたします。
パンドラのノートプロローグ
――きみは意外と口が悪いよねと呆れたように笑われるのが好きだった。
今となってはもう十年も前の話だ。
それでも時々ふとした瞬間に浮かび上がって来る。
声はもう思い出せないが、つくりものめいた笑顔と好奇心を宿すあの青い瞳は、蔵内の脳裏にいっそ焼印かと思うぐらい鮮やかに焼き付いていた。
十年。
ボーダーは大きくなり設備が充実して同盟国も増えた。
蔵内和紀はそのうち開発室にスライド就職し、今はチーフエンジニアとして一つのチームを纏めるに至っていた。
東春秋と同じく大学院へ進学するのだと目されていたのに、三年次の冬にぱたりと院試の勉強を辞め、以降開発室に入り浸る形でそのままボーダー職員となった。
17031――きみは意外と口が悪いよねと呆れたように笑われるのが好きだった。
今となってはもう十年も前の話だ。
それでも時々ふとした瞬間に浮かび上がって来る。
声はもう思い出せないが、つくりものめいた笑顔と好奇心を宿すあの青い瞳は、蔵内の脳裏にいっそ焼印かと思うぐらい鮮やかに焼き付いていた。
十年。
ボーダーは大きくなり設備が充実して同盟国も増えた。
蔵内和紀はそのうち開発室にスライド就職し、今はチーフエンジニアとして一つのチームを纏めるに至っていた。
東春秋と同じく大学院へ進学するのだと目されていたのに、三年次の冬にぱたりと院試の勉強を辞め、以降開発室に入り浸る形でそのままボーダー職員となった。