深夜の味噌ラーメンに蔵内は白菜とにんじんを入れる良い匂いがして、目が覚めた。キッチンの方が仄かに明るくて、隣で寝ていた筈のクラウチの形に布団が空いていた。ベッドを降りて、少し冷えた床に足を下ろす。ガウンを着て向かうと、クラウチがコンロでお湯を沸かしているところだった。
「なにしてるの?」
ぼんやりしながら尋ねると、起きたのか、とクラウチが言って、まだ眠気でぽやぽやしているぼくの額に口づけた。
冷蔵庫から白菜とにんじんを出して、クラウチがざくざくと手際良く細切りにして、鍋に放り込む。それからしゃがんで、シンク下に纏めて買ってある袋ラーメンを取り出しかけ、
「…おまえも食うか?」
と聞いた。頷く。
「食べたいな」
分かった、と言ってクラウチは二袋取り出し、シンクを閉めた。青白い蛍光灯が、クラウチの整った横顔を照らし出している。
鍋に水は足されなかったから、たぶん、はじめからぼくが食べたくなるのを見越していたんだろう。
袋麺を開けて、四角い麺がふたつ、鍋に投入される。夜だからか、キッチンタイマーをセットする音がやけに響く。未だそこに立っているだけのぼくに文句も言わず、クラウチはどんぶりを二つ出してから、ぼくの方を見た。
いつも綺麗にセットされた髪は、今はちょっとぼさぼさしている。きっとぼくも同じだ。生活感と秘密が入り混じったような心持ちがして、ちょっと笑う。クラウチが屈んで、ぼくの唇をぬすんでいった。
「もうすぐ出来るから、ソファで待ってろ」
「分かった」
背中を押されてやる気のない速度で、隣の部屋のソファに向かう。ピピ、ピピ、と音がして、クラウチが火を止めたようだった。
味噌ラーメンの、何とも言えない食欲を唆る匂いがふわりと漂ってくる。正直な胃が、くう、と鳴った。
深夜に食べるインスタントラーメンなのに、上にちゃんと野菜の乗った二つのどんぶりが運ばれてくる。渡された箸を手に、手を合わせる。
「いただきます」
「いただきます」
ずず、と麺を啜る音が重なる。食べ始めるとなんだか空腹を自覚してしまって、二人とも無言のまま、半分くらいを一気に食べてしまった。
「深夜に食べるインスタントラーメンは美味しいねえ」
「何でなんだろうな」
「罪悪感がスパイスだから?お腹が空いてるから?」
それとも、きみが作るから?
そう囁くと、少しだけ照れたクラウチが、わざとらしくラーメンを啜った。
「……おまえが喜ぶなら、何度だって作るさ」
「それってプロポーズ?」
「違う」
白菜とにんじんを噛み締める。こういう、なんにでも手を抜かないところが、クラウチの素敵なところのうちの一つだ。ぼくはそう思った。