みかんづめ
DONE2025/03/07出すのをすっかり忘れていた蛇年なお話を手直ししたもの。
皇紀さんの下半身が蛇です。お好きな方はどうぞ。
蛇に婿入り今となってはもう、あれが夢だったのか現実だったのか思い出せないけれど――――――
僕の記憶には、「大きな蛇を逃がしてあげた」というものがある。
僕が五歳くらいの時の話だ。珍しく僕は母に手を引かれて、動物園に遊びに来ていた。大きな象やカバ、勇猛なライオンや背の高いキリン、ふれあいコーナーのモルモットやうさぎ。どの動物も可愛くて、格好良くて、僕はすっかり彼ら彼女らの虜になっていた。けれど、一番うれしかったのは―――――普段、忙しくてあまり構ってくれない母が、僕のために時間を割いてくれたことだった。それは幼い僕が、常日頃から抱いていた寂しさの穴をそっと塞いでくれるような一日だった。
さて、何があったかは忘れてしまったが―――――そんな母が、数分だけ僕の隣から離れる時間があった。仕事の電話が入ってしまったのかなんなのかはわからないが、ずっとそばにいてくれるはずだった人が少しでも離れて行ったのが悲しくて、寂しくて。僕はやり切れない気持ちになって、じわりと瞳に涙が滲んだ。
3810僕の記憶には、「大きな蛇を逃がしてあげた」というものがある。
僕が五歳くらいの時の話だ。珍しく僕は母に手を引かれて、動物園に遊びに来ていた。大きな象やカバ、勇猛なライオンや背の高いキリン、ふれあいコーナーのモルモットやうさぎ。どの動物も可愛くて、格好良くて、僕はすっかり彼ら彼女らの虜になっていた。けれど、一番うれしかったのは―――――普段、忙しくてあまり構ってくれない母が、僕のために時間を割いてくれたことだった。それは幼い僕が、常日頃から抱いていた寂しさの穴をそっと塞いでくれるような一日だった。
さて、何があったかは忘れてしまったが―――――そんな母が、数分だけ僕の隣から離れる時間があった。仕事の電話が入ってしまったのかなんなのかはわからないが、ずっとそばにいてくれるはずだった人が少しでも離れて行ったのが悲しくて、寂しくて。僕はやり切れない気持ちになって、じわりと瞳に涙が滲んだ。
みかんづめ
DOODLE2024/10/30ハロイベの感想に代えて。皇紀さんの事が知りたいけどちょっと怖いノアくんと、「皇紀」としての人生が気に入ってる真壁さん。
うわばみ「厨房、空いてるか」
「今は―――――――ちょうどお客さんもいないので、空いてます」
「借りるぞ」
すたすたと虹色カフェに踏み込んでいく皇紀さんの手には、何かしらの入ったビニール袋がひとつ。VIPルーム空いてますか、はよく聞かれるけど、厨房が空いてるかについて聞くのなんて皇紀さんか深水くんくらいである。深水くんはレオンと一緒に創作料理をすることが多くて、僕と蒲生くんはよくふたりのチャレンジのご相伴に預かっている。そして皇紀さんはというと―――――大体、お裾分けを調理してくれる事が多い。
「袋、重そうですね。何が入ってるんですか?」
「南瓜だ」
「か、かぼちゃ?なんでまた」
「……久城駆に押し付けられたモンだ。ちっ……面倒くせえ……」
3540「今は―――――――ちょうどお客さんもいないので、空いてます」
「借りるぞ」
すたすたと虹色カフェに踏み込んでいく皇紀さんの手には、何かしらの入ったビニール袋がひとつ。VIPルーム空いてますか、はよく聞かれるけど、厨房が空いてるかについて聞くのなんて皇紀さんか深水くんくらいである。深水くんはレオンと一緒に創作料理をすることが多くて、僕と蒲生くんはよくふたりのチャレンジのご相伴に預かっている。そして皇紀さんはというと―――――大体、お裾分けを調理してくれる事が多い。
「袋、重そうですね。何が入ってるんですか?」
「南瓜だ」
「か、かぼちゃ?なんでまた」
「……久城駆に押し付けられたモンだ。ちっ……面倒くせえ……」
みかんづめ
DONE2024/09/01普通じゃないノアくんと、複雑そうに見えてシンプルな皇紀さんと、巻き込まれる浄の話。
欲の深さとその性質ノアという男は肝の据わった御曹司だが、根はどこまでも純朴で心優しく善良な、「普通」の青年だ。成人済みだが、同世代のライダーたちと並んでいると体躯も小さく、青年というよりは少年にも見える。
彼の善良さ――――――いや、お人好しは基本誰彼構わず行使される。
人のお願い事を聞きすぎてしまう所もあるが、それに救われている人間も一定数存在するだろう。「この男なら信じられる」「この人なら弱みを見せてもいい」みたいな甘えと情が入り混じったもの。
そして、そんな「普通」の青年には好きなひとがいる。
しかし俺は十分すぎるほど、普通の青年の好きなひとが「普通じゃない」という事をよく知っていた。
「虹顔花火大会が、もうすぐあるんですよ」
3206彼の善良さ――――――いや、お人好しは基本誰彼構わず行使される。
人のお願い事を聞きすぎてしまう所もあるが、それに救われている人間も一定数存在するだろう。「この男なら信じられる」「この人なら弱みを見せてもいい」みたいな甘えと情が入り混じったもの。
そして、そんな「普通」の青年には好きなひとがいる。
しかし俺は十分すぎるほど、普通の青年の好きなひとが「普通じゃない」という事をよく知っていた。
「虹顔花火大会が、もうすぐあるんですよ」
みかんづめ
DONE2024/07/20人魚の肉を食べたらどうしようね、というノア皇の話。
誰が為の刺身「……………もし僕が人魚の肉を持ってきたら、皇紀さんはどうしますか」
皇紀さんはぴたりと箸を止め、その綺麗な赤い瞳で僕を見る。今僕らは、VIPルームで刺身を食べていた。皇紀さんいわく、「珍しい魚が手に入った」「厨房貸せ」とのことで。ちょうどお客さんもいないタイミングだったので存分に使ってもらい、二人分の刺身の盛り合わせが完成した。レオンにも食べさせたかったけど、買い物中だったので致し方ない。とにかく僕らは名前の難しい、珍しい魚をもくもくと二人で食べていた。
そして、上記の会話である。
「――――――――――――……………」
言わなければ良かったろうか。ねっちりとした肉はちょうど生姜醤油とマッチしていて、それはそれは美味しい。しかしその美味しさは90%くらい。理由は簡単、口から出てしまった言葉に気まずさを覚えているから。魚に罪は全くない。
1651皇紀さんはぴたりと箸を止め、その綺麗な赤い瞳で僕を見る。今僕らは、VIPルームで刺身を食べていた。皇紀さんいわく、「珍しい魚が手に入った」「厨房貸せ」とのことで。ちょうどお客さんもいないタイミングだったので存分に使ってもらい、二人分の刺身の盛り合わせが完成した。レオンにも食べさせたかったけど、買い物中だったので致し方ない。とにかく僕らは名前の難しい、珍しい魚をもくもくと二人で食べていた。
そして、上記の会話である。
「――――――――――――……………」
言わなければ良かったろうか。ねっちりとした肉はちょうど生姜醤油とマッチしていて、それはそれは美味しい。しかしその美味しさは90%くらい。理由は簡単、口から出てしまった言葉に気まずさを覚えているから。魚に罪は全くない。
みかんづめ
DOODLE2024/07/13毒に耐性があるどころか……だったらどうしようね、という無い話をしている浄とエーの話。
蓄積「君は桃娘を知っているかな」
調査中、あまりの暑さにへとへとになった僕たちは近くのカフェへ逃げ込んだ。夏らしく氷菓メインに取り扱ったそのお店で、僕はさっぱりとした桃のジェラートを、浄さんは赤いスイカと青いソーダの二色アイスを食べていた。浄さんパンケーキ行かないの珍しいですね。俺だって暑ければそれらしいものを食べるよ。しかし美味いねこのアイス。そんな話をしながら涼んでいる最中、浄さんが僕の手もとを見て言ったのが先程の言葉だ。
僕は一度スプーンを器の中に置いて、じとりと浄さんを見る。
「…………え、今します?その話」
「いやあ。むしろ今こそすべきなんじゃないのかい?」
「……確か、中国のお伽噺ですよね?伝説というか……桃と水だけで育った女の子がいるっていう。それしか摂取できないから、彼女らの分泌する体液はいい匂いがしたとか」
1801調査中、あまりの暑さにへとへとになった僕たちは近くのカフェへ逃げ込んだ。夏らしく氷菓メインに取り扱ったそのお店で、僕はさっぱりとした桃のジェラートを、浄さんは赤いスイカと青いソーダの二色アイスを食べていた。浄さんパンケーキ行かないの珍しいですね。俺だって暑ければそれらしいものを食べるよ。しかし美味いねこのアイス。そんな話をしながら涼んでいる最中、浄さんが僕の手もとを見て言ったのが先程の言葉だ。
僕は一度スプーンを器の中に置いて、じとりと浄さんを見る。
「…………え、今します?その話」
「いやあ。むしろ今こそすべきなんじゃないのかい?」
「……確か、中国のお伽噺ですよね?伝説というか……桃と水だけで育った女の子がいるっていう。それしか摂取できないから、彼女らの分泌する体液はいい匂いがしたとか」
みかんづめ
DONE2024/07/13やらしい夢を見てしまったノアくんと、夢占いしてくれる宗さまと……という話。顔褒めるのはダメならさ……じゃあ中身褒められるのは嬉しいの?と思って書いた記憶。
占う以前の欲の発露「―――――――――――うわあっ!!!!!!」
がばりと起き上がる。寝起きにも関わらず僕の心臓はばくばくと音を立てていて、ぼんやりと月明かりを受け止めるカーテンだけが光源となる。枕元の時計を見てみれば、まだ午前三時。そこでようやくホッと息を吐いた。よかった、まだ眠れる。
「(でも……なんか、よく寝たのに疲れたような……)」
「睡眠」という、体を休めるべき最大のタスクを終えたにも関わらず、僕の心身はすっかり疲労しきっていた。――――――――多分、起きる前に見た「あの夢」のせいだ。あの夢のせいで、僕は今こんなになってて、そして――――――
「…………………」
パンツが、嫌な濡れ方をしている。
はたちの男が夢精をしたことへの情けなさで、僕は大きな溜息を吐いた。
3916がばりと起き上がる。寝起きにも関わらず僕の心臓はばくばくと音を立てていて、ぼんやりと月明かりを受け止めるカーテンだけが光源となる。枕元の時計を見てみれば、まだ午前三時。そこでようやくホッと息を吐いた。よかった、まだ眠れる。
「(でも……なんか、よく寝たのに疲れたような……)」
「睡眠」という、体を休めるべき最大のタスクを終えたにも関わらず、僕の心身はすっかり疲労しきっていた。――――――――多分、起きる前に見た「あの夢」のせいだ。あの夢のせいで、僕は今こんなになってて、そして――――――
「…………………」
パンツが、嫌な濡れ方をしている。
はたちの男が夢精をしたことへの情けなさで、僕は大きな溜息を吐いた。
みかんづめ
DONE2024/6/16 某所より再掲恐らく一番最初に書いたノア皇。今考えると若干解釈違いな所はありますが、これもまた思い出なのでそのまま載せちゃいます。皇紀さんに舌の厚さを知られる話。
舌品料理「こんにちはー。宗雲さんいらっしゃいますか?ちょっと渡したい資料があって……」
夕方ごろ、まだ開店前のウィズダムに行けば目当ての人物はなく。代わりに颯さんがひらひらと手を振りながら「ノアさんだ!いらっしゃーい!」と屈託の無い笑顔で出迎えてくれた。
「宗雲に用事?ごめんねー、もうちょっとしたら戻ると思うんだけど」
「そうですか……では、そちらの席で待たせてもらっても?」
「もちろん!あ、僕開店準備の続きしなきゃ。お構いできなくてごめん」
「いえいえ、むしろ僕こそ忙しい時間に来ちゃってすみません。準備、なにか手伝うことありますか?」
「ノアさんはお客様だもん、だいじょーぶ。それじゃっ、ゆっくりしてて!」
文字通りはやての如く駆けていく颯さんを見送りつつ、カウンター席に座る。僕には少し高すぎるくらいのその椅子は、座ると余裕で足が浮く。ラウンジから見えるビル群と沈みゆく夕陽をぼんやりと見つめている。さすが高級ラウンジだなあ、なんて思っていたからか、はたまた別の理由か―――――僕は、近づいてきた人物に全く気付かなかった。
2078夕方ごろ、まだ開店前のウィズダムに行けば目当ての人物はなく。代わりに颯さんがひらひらと手を振りながら「ノアさんだ!いらっしゃーい!」と屈託の無い笑顔で出迎えてくれた。
「宗雲に用事?ごめんねー、もうちょっとしたら戻ると思うんだけど」
「そうですか……では、そちらの席で待たせてもらっても?」
「もちろん!あ、僕開店準備の続きしなきゃ。お構いできなくてごめん」
「いえいえ、むしろ僕こそ忙しい時間に来ちゃってすみません。準備、なにか手伝うことありますか?」
「ノアさんはお客様だもん、だいじょーぶ。それじゃっ、ゆっくりしてて!」
文字通りはやての如く駆けていく颯さんを見送りつつ、カウンター席に座る。僕には少し高すぎるくらいのその椅子は、座ると余裕で足が浮く。ラウンジから見えるビル群と沈みゆく夕陽をぼんやりと見つめている。さすが高級ラウンジだなあ、なんて思っていたからか、はたまた別の理由か―――――僕は、近づいてきた人物に全く気付かなかった。