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    みかんづめ

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    みかんづめ

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    2024/07/20 
    人魚の肉を食べたらどうしようね、というノア皇の話。

    #エー皇
    #ノア皇

    誰が為の刺身「……………もし僕が人魚の肉を持ってきたら、皇紀さんはどうしますか」
    皇紀さんはぴたりと箸を止め、その綺麗な赤い瞳で僕を見る。今僕らは、VIPルームで刺身を食べていた。皇紀さんいわく、「珍しい魚が手に入った」「厨房貸せ」とのことで。ちょうどお客さんもいないタイミングだったので存分に使ってもらい、二人分の刺身の盛り合わせが完成した。レオンにも食べさせたかったけど、買い物中だったので致し方ない。とにかく僕らは名前の難しい、珍しい魚をもくもくと二人で食べていた。
    そして、上記の会話である。
    「――――――――――――……………」
    言わなければ良かったろうか。ねっちりとした肉はちょうど生姜醤油とマッチしていて、それはそれは美味しい。しかしその美味しさは90%くらい。理由は簡単、口から出てしまった言葉に気まずさを覚えているから。魚に罪は全くない。
    皇紀さんは無言のまま箸を皿に伸ばし、身を食べる。彼の手元の皿には生姜醤油ではなく柚子ポン酢だ。曰く、柑橘系も合うらしい。その品のある所作に色を感じてしまい、じっと動きを見つめてしまった。それでようやく、自分が答えを求めるために見つめているようではないか、と気づく。恥じる。魚は、美味しい。けれど今、80%くらいだ。
    「…………不老不死にでもなりてえのか」
    ようやくその声帯が僕のために震える。待っていたはずのその言葉に対して、僕の声は思っていたよりも小さくなった。
    「…………そういうわけじゃない、ですけど」
    そう、不老不死になりたいわけじゃない。今生きている日々を大事にし、大きな病気も無く、老衰で死にたい。そのあたりの死生観は月並みなものである。
    けれど昨日の夜、ふいに思ってしまったのだ。隣に眠る、白すぎる肌を持つ彼の眠る姿を見ていたら―――――――「このひとは、長く生きないんじゃないか」って。
    命を狩る者は、狩られる者でもある。現に彼は毒のある生物によって耐性が出来てしまっているし、獣を狩るなんてしょっちゅうだ。肉食獣のような彼がいつか、べつの生き物に狩られてしまうのではないか。僕の見ていないところで食われてしまうのではないか。そう思ったら耐えられなくなってしまって、朝までは呑み込めたのに、思っていた以上に早い再会に呑み込めたはずのものが漏れ出てしまって――――――今に、至る。
    「(違うんだ、そういうことが言いたいんじゃなくて)」
    不老不死になりたいわけじゃない。ただ、彼に生きて欲しい。怪我や毒に侵されない体でいてほしい。そんなことを願ってしまうのは、完全なる僕の傲慢だ。生きるも死ぬも、皇紀さん次第なのに。彼の命は彼だけのものなのに。
    皇紀さんはしばらく黙って咀嚼して、ごくんと身を飲み込んだ。そうして、僕の方を向く。
    「俺は不老不死には興味無ぇ」
    「―――――――――そう、ですよね」
    それは、なんとなく思っていた。だから落胆よりも安堵の方が大きい。
    「……………だが。お前が持ってくるなら別だ」
    「え」
    「調理はしてみたい」
    彼は笑う。唇が動く。
    「もし、人魚を捕まえたら――――――執事じゃ手に余るだろう、俺にしとけ。活け造りにしてやる」
    「――――――――っあ、味は、」
    「あ?」
    「味は、気にならないんですか。………………」
    思わず縋るように聞いてしまう。皇紀さんはしばらく考えたのち、ぽそりと呟いた。
    「………食えねえもんは出さねえ」
    「じゃあ」
    「その時はお前も食え」
    「!」
    欲しい答えをくれたとして、それが果たして彼らしいものと云えるのか。らしさを曲げてまで、その答えは欲しい物なのか。いま僕は、とても彼らしい応えが聞けて――――――

    ――――――――――ひどく、泣きそうになっていた。

    「……………ふたりで女一人分の肉を食うのは少し骨が折れるだろうが、まあ大丈夫だろう。お前はよく食うし―――――――」
    「まさか上も食べる気ですか皇紀さん」
    「………………」
    「………上も食べる気なんですね皇紀さん!?」

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    みかんづめ

    DONE2025/03/07
    出すのをすっかり忘れていた蛇年なお話を手直ししたもの。
    皇紀さんの下半身が蛇です。お好きな方はどうぞ。
    蛇に婿入り今となってはもう、あれが夢だったのか現実だったのか思い出せないけれど――――――
    僕の記憶には、「大きな蛇を逃がしてあげた」というものがある。

    僕が五歳くらいの時の話だ。珍しく僕は母に手を引かれて、動物園に遊びに来ていた。大きな象やカバ、勇猛なライオンや背の高いキリン、ふれあいコーナーのモルモットやうさぎ。どの動物も可愛くて、格好良くて、僕はすっかり彼ら彼女らの虜になっていた。けれど、一番うれしかったのは―――――普段、忙しくてあまり構ってくれない母が、僕のために時間を割いてくれたことだった。それは幼い僕が、常日頃から抱いていた寂しさの穴をそっと塞いでくれるような一日だった。
    さて、何があったかは忘れてしまったが―――――そんな母が、数分だけ僕の隣から離れる時間があった。仕事の電話が入ってしまったのかなんなのかはわからないが、ずっとそばにいてくれるはずだった人が少しでも離れて行ったのが悲しくて、寂しくて。僕はやり切れない気持ちになって、じわりと瞳に涙が滲んだ。
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    みかんづめ

    DONE2024/6/16 某所より再掲
    恐らく一番最初に書いたノア皇。今考えると若干解釈違いな所はありますが、これもまた思い出なのでそのまま載せちゃいます。皇紀さんに舌の厚さを知られる話。
    舌品料理「こんにちはー。宗雲さんいらっしゃいますか?ちょっと渡したい資料があって……」
    夕方ごろ、まだ開店前のウィズダムに行けば目当ての人物はなく。代わりに颯さんがひらひらと手を振りながら「ノアさんだ!いらっしゃーい!」と屈託の無い笑顔で出迎えてくれた。
    「宗雲に用事?ごめんねー、もうちょっとしたら戻ると思うんだけど」
    「そうですか……では、そちらの席で待たせてもらっても?」
    「もちろん!あ、僕開店準備の続きしなきゃ。お構いできなくてごめん」
    「いえいえ、むしろ僕こそ忙しい時間に来ちゃってすみません。準備、なにか手伝うことありますか?」
    「ノアさんはお客様だもん、だいじょーぶ。それじゃっ、ゆっくりしてて!」
    文字通りはやての如く駆けていく颯さんを見送りつつ、カウンター席に座る。僕には少し高すぎるくらいのその椅子は、座ると余裕で足が浮く。ラウンジから見えるビル群と沈みゆく夕陽をぼんやりと見つめている。さすが高級ラウンジだなあ、なんて思っていたからか、はたまた別の理由か―――――僕は、近づいてきた人物に全く気付かなかった。
    2078

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