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    みかんづめ

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    みかんづめ

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    2024/09/01
    普通じゃないノアくんと、複雑そうに見えてシンプルな皇紀さんと、巻き込まれる浄の話。

    #エー皇
    #ノア皇

    欲の深さとその性質ノアという男は肝の据わった御曹司だが、根はどこまでも純朴で心優しく善良な、「普通」の青年だ。成人済みだが、同世代のライダーたちと並んでいると体躯も小さく、青年というよりは少年にも見える。
    彼の善良さ――――――いや、お人好しは基本誰彼構わず行使される。
    人のお願い事を聞きすぎてしまう所もあるが、それに救われている人間も一定数存在するだろう。「この男なら信じられる」「この人なら弱みを見せてもいい」みたいな甘えと情が入り混じったもの。
    そして、そんな「普通」の青年には好きなひとがいる。
    しかし俺は十分すぎるほど、普通の青年の好きなひとが「普通じゃない」という事をよく知っていた。

    「虹顔花火大会が、もうすぐあるんですよ」
    誘いたいんですけどね、と青年はしょんぼりしながら呟いた。俺は相談賃代わりのクッキーをつまみながら、VIPルームで恋の話を聞いている。酒の肴になるような話では無いが、少なくともこのクッキーの甘さには合っている。それに、俺の身の回りにはこういった甘酸っぱい類の話とは縁が無いか、あったとしても遠い昔に置いてきたものばかりである。だから彼の話は一週回って新鮮だった。
    しかし、まあ。彼の望みは平凡で、ささやかで、どこまでの普通だったのだ。
    「誘ってみればいいじゃないか」
    「………返ってくる答えがわからない浄さんじゃないでしょうに」
    「ははは、まあね」
    仕事じゃなければ人の多く集まるところには行かないだろう。ましてや花火を見て構成要素や火力についてまず考える男だ、情緒も風情もあったものじゃない。
    こんな時颯だったら「じゃあ屋台巡りしない?食べ歩きしようよ~!」みたいな切り口で押し切ると思うのだが、目の前の青年にはそこまでの自信と力は無いらしい。まあ、颯のアレは早々誰もが持てるものでも無いと思うけど。
    「………そもそも、お付き合いしてるわけじゃないから言いにくいんですよ。で、………デートしてみたい、みたいなこと……」
    もじもじしながらそんなことを呟く彼は、小動物のようで可愛らしい。俺は笑わないように気を付けながら返答した。
    「いいじゃないか。別のステージに踏み出すための誘いだと思えば」
    「それでも、怖いんですよ。つまらない人間だと思われるのが」
    俺からしてみれば、ノアはかわいい方である。これがレディだとして―――――相手の好みを考えて、自分の願望を抑え込む。それは健気で、少しだけ可哀想だと思う。
    けれどノアの言い分もわかる。確かにアレに「普通」の世界は退屈だろうと思う。
    「随分厄介な相手に惚れちゃったなあ。君ならもっと良い相手がいるだろうに」
    「……………住んでる世界が違うって、すぐ諦めればよかったんですけどね」
    ノアは少しだけ目を伏せる。それから、俺が見た事のない表情を見せた。
    「肝心な所が嵌っちゃって、抜け出せないというか。どうしようもなく相性が良い部分を味合わずにはいられないから――――――そのためなら、『普通』のことなんて端に置けてしまうというか」
    「…………随分抽象的だな」
    「はは……何言ってるんだって感じですよね。僕もです。でも、僕は凡人だから――――――端に置いた『普通』に、目が行ってしまう」
    どっちつかずなんですよ、と彼は寂しそうに笑った。
    俺としたことが、感情の正体が絶妙にわからない。掴めそうで掴めない、まるで煙の向こうのような存在だ。そこまで考えて喉の奥で笑う。おいおい、そういうのは俺の専売特許だろう。
    これからもお話していいですか、と言った彼の顔はすっかり見慣れたもの―――――優しい顔つきの、「普通」の青年の表情で。俺は内心、安堵していた。



    「―――――――――しまった………」
    「ん?どうしたの浄」
    「煙草を忘れたみたいだ。取りに行ってくる」
    「………禁煙すればいいんじゃないか?」
    「はは、できてたらとっくにやってるよ。じゃあね、颯、宗雲」
    「ああ、お疲れ」
    「お疲れ様、また明日ね!」
    帰っていく二人の背中を見送りつつ、ちらりと「ウィズダム」を見上げた。奥の方にぼんやりとした光が灯っている。確か、明日の仕込みをしてから帰ると言っていたか。忘れ物を取りに行くついでに一声掛けていこう。そんな事を思いながらエレベーターのボタンを押し、最上階へと上がっていく。
    スマホに届いたレディからの囀りをチェックしているうちに、アナウンスと共に扉が開いた。
    「ん」
    先程まで点いていた灯が完全に消えている。仕込みは終わったのだろうか。仕事が早い。
    「(ということは……更衣室か)」
    どちみち、自分もそちらに用があって戻ってきたのだ。俺は軽い足取りで更衣室へと進み、軽いノックと共に扉を開いた。
    「やあ、お疲れ皇紀。仕込みは終わっ、…………………」

    「ああ。……………何しに来た」
    「え?ああ、うん。忘れ物を取りに来たんだ。…………ところで、皇紀」
    すごいな、と俺は呟いた。

    皇紀は―――――よりにもよって着替え中の彼の背中には――――――無数の、痛々しい噛み跡が残されていた。鬱血痕よりそっちの方が多い。なまじ白い背中だからか、それらの青紫色は美しくキャンバスに映えている。じゃなくて。

    「………………………ああ、」
    皇紀は目を軽く伏せて、噛み痕をなぞる。怒りの色は見えない。見られても気にしていない、そんな表情だ。気にしてくれよ。俺が居た堪れない。
    「………珍しいな、お前がそういうものを許すの。どれだけ苛烈でワイルドなお姫様だったんだ?」
    「…………こっちが噛みついていたら、その気になったらしい。……………」
    皇紀は服を着ながら続ける。今日は饒舌だ。………彼は、こんな特殊性癖があったのだろうか。顔や性格に見合わず、暴力的だ。
    「…………最初こそ俺が喰っていた。それから、気分でたまに喰わせてやるようになった」
    ………いや、違うかもしれない。彼は多分、この男の欲望みたいなものを掬い取ったんだろう。食うか食われるか、命のやりとりにも似たひりついた感覚を―――――――狩り以外の場所で、見い出してしまったのだ。
    「今は、」
    「………………ああいうのに一歩的に喰われるのは、悪くねえ」

    『肝心な所が嵌っちゃって、抜け出せないというか。どうしようもなく相性が良い部分を味合わずにはいられないから――――――そのためなら、『普通』のことなんて端に置けてしまうというか』

    単純な話だ。お互い、「味をしめた」ということなのだ。
    ただ目の前の男は「普通じゃない」から、そういう関係を是とし、満足し。
    彼は「普通」だから、そういう関係に満足してはいけないと思っている節がありそうで。

    「……………で、お前ノアのどこが好きなんだ?」
    「………………………」

    流石に睨まれる。睨むなよ。これくらい聞く権利はあるよ、俺には。
    皇紀はロッカーを閉めて、いつものジャケットに帽子を被る。翳って表情は見えない。
    ただ、俺の脇を通る時にぼそりと呟いた声だけはハッキリと聞こえた。

    「あいつといると、三大欲求が全部埋まる」

    そういえば体躯のわりに沢山食べるノアを見つめる彼の目は、珍しく満足気だった。
    食わせて、喰わせて、寝かせて。お前はどっちかっていうと三大欲求を与えてる方なんじゃないか、と思ったが――――――多分、与えることで満たされるものがあるのだろう。
    「(どうしても相性が良い部分、か)」
    それが元祖の欲求であれば納得だ。いやはや、なんとも―――――うまくいってないようで、噛み合ってる二人である。

    「………でも皇紀、ハードなプレイは程ほどにしておいてやれよ?お前の欲に応えてくれるとはいえ、それはさすがに荷が重いだろうし。例えば首絞めとか―――――――」
    「………………………」
    「…………まさかもう経験済みとか言わないよな?」
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    みかんづめ

    DONE2025/03/07
    出すのをすっかり忘れていた蛇年なお話を手直ししたもの。
    皇紀さんの下半身が蛇です。お好きな方はどうぞ。
    蛇に婿入り今となってはもう、あれが夢だったのか現実だったのか思い出せないけれど――――――
    僕の記憶には、「大きな蛇を逃がしてあげた」というものがある。

    僕が五歳くらいの時の話だ。珍しく僕は母に手を引かれて、動物園に遊びに来ていた。大きな象やカバ、勇猛なライオンや背の高いキリン、ふれあいコーナーのモルモットやうさぎ。どの動物も可愛くて、格好良くて、僕はすっかり彼ら彼女らの虜になっていた。けれど、一番うれしかったのは―――――普段、忙しくてあまり構ってくれない母が、僕のために時間を割いてくれたことだった。それは幼い僕が、常日頃から抱いていた寂しさの穴をそっと塞いでくれるような一日だった。
    さて、何があったかは忘れてしまったが―――――そんな母が、数分だけ僕の隣から離れる時間があった。仕事の電話が入ってしまったのかなんなのかはわからないが、ずっとそばにいてくれるはずだった人が少しでも離れて行ったのが悲しくて、寂しくて。僕はやり切れない気持ちになって、じわりと瞳に涙が滲んだ。
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    みかんづめ

    DONE2024/6/16 某所より再掲
    恐らく一番最初に書いたノア皇。今考えると若干解釈違いな所はありますが、これもまた思い出なのでそのまま載せちゃいます。皇紀さんに舌の厚さを知られる話。
    舌品料理「こんにちはー。宗雲さんいらっしゃいますか?ちょっと渡したい資料があって……」
    夕方ごろ、まだ開店前のウィズダムに行けば目当ての人物はなく。代わりに颯さんがひらひらと手を振りながら「ノアさんだ!いらっしゃーい!」と屈託の無い笑顔で出迎えてくれた。
    「宗雲に用事?ごめんねー、もうちょっとしたら戻ると思うんだけど」
    「そうですか……では、そちらの席で待たせてもらっても?」
    「もちろん!あ、僕開店準備の続きしなきゃ。お構いできなくてごめん」
    「いえいえ、むしろ僕こそ忙しい時間に来ちゃってすみません。準備、なにか手伝うことありますか?」
    「ノアさんはお客様だもん、だいじょーぶ。それじゃっ、ゆっくりしてて!」
    文字通りはやての如く駆けていく颯さんを見送りつつ、カウンター席に座る。僕には少し高すぎるくらいのその椅子は、座ると余裕で足が浮く。ラウンジから見えるビル群と沈みゆく夕陽をぼんやりと見つめている。さすが高級ラウンジだなあ、なんて思っていたからか、はたまた別の理由か―――――僕は、近づいてきた人物に全く気付かなかった。
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