アオハルの裏側「はい! 今日も始まりましたRa*bitsちゃんねる、今回はおれ、仁兎 なずなと~」
「ダッシュダーッシュで登場だぜ! 天満光がお届けするんだぜ~!」
『Ra*bitsちゃんねる』と大きく印刷された水色のTシャツを着ている二人のトークは、いつも通りの挨拶から始まる。
「ふふ、相変わらず光ちんは元気だな! でも今日は少し大人しめにするんだぞ、だって今日は……」
「ここにお邪魔してるんだぜっ」
二人がすっとカメラ前から横によけると、そこには『Ra*bits 真白友也 紫之創 様』と印刷された紙が貼られた扉が現れた。二人は嬉しそうにその文字を指さしながら、にこにこと微笑む。
「ここはなんと、Ra*bitsのリーダー友ちんと創ちんが出演するスポーツ飲料CM『ピュアな恋心』編、第二弾CMの撮影現場!」
「今回はオレたちが話題のCM撮影現場の裏側に、潜入調査しちゃうんだぜ~っ」
二人は声のボリュームを落として「エイエイオー!」と言わんばかりにポーズを決めると、早速コンコンと扉をノックした。
正体がばれないようにしたいのか、しーっと人差し指を唇に当てながらの無言のノックに、扉の内側からは無防備な「は~い」という間延びした返事が返ってくる。カメラの方に目線で合図を送ってから、二人は勢いよく中へ入っていった。
「どうも~Ra*bitsちゃんねるでーす!」
「友ちゃんに、創ちゃん、お疲れ様なんだぜ~っ!」
広い楽屋なのになぜか隅の方で台本を手に座り込んでいた友也と創は、もうあのCM衣装の制服を身に纏っていた。
夢ノ咲ではない、知らない学校に通う男子高校生のような姿はどこか新鮮で、なずなと光のテンションも一目で高まった。
「うわ、光に、に~ちゃんっ?」
「えっ? お、お疲れ様です……っ?」
突然入ってきたユニットメンバーの登場に、二人は思わず立ち上がり驚く。そんないいリアクションをする二人に、今日の趣旨を簡単に説明すると、友也は「えぇ、それじゃあ失敗とかできないなぁ」なんて笑いながら頭をかく。
「それにしても二人、どうしてこんな広い部屋なのに隅の方に座ってんだ?」
なずなが、きっとこの映像を見ているファンも気になるだろう問を向けると、その返答にはにかんだように笑ったのは創だった。
「前回のCMがすごい評判が良かったみたいで、楽屋も立派なところを用意していただいたんですけど、ぼくは広い部屋だとどうも落ち着かなくて……」
「創、撮影前だっていうのにこの部屋見ただけで緊張し始めちゃったんだよな」
照れるように苦笑する二人に、なずなはここぞとばかりに話を切り出した。
「そう、前回のCM! 二人の初々しい様子と、ピュアな恋心にキュンとくるって一気に話題になったよなぁ!」
「このRa*bitsちゃんねるにもたくさんコメントが来てるんだぜ!」
「わぁ、ありがとうございます、嬉しいです♪」
「第二弾がくるなんて思ってもみなかったですよ……光栄です」
二人がカメラの向こうのファンに向かっても、ありがたい、と頭を下げると、光は「ねぇねぇ!」とハイテンションで話しかけた。
「前回のチューのシーンってさ、やっぱりドキドキしたっ?」
「えっ?」
純粋無垢な光の突然の問いに、二人は少し頬を赤らめて固まる。
「こらこら光ちん、突然何きいてるんだよぉ」
台本にない展開になずなが思わず軌道修正を図ろうとするが、光の勢いは止まらない。
「だって、オレあのチューのシーン見る度に、胸がドキドキしてギューってなっちゃうんだぜ! 二人はどうだったのかなぁって思って」
「それは……俺だってドキドキしたよ」
「はい、ぼくもこういうシーンは初めてだったんで。あ、でも……」
創は口元を手で覆うと、友也の方をちらりと見つめた。
「初めてが、友也くんでよかったです……本当に緊張しちゃったんで」
頬を赤らめてもじもじと、そう告げる創。
そのあまりの可愛さに、友也はカメラがまわっているにも関わらず、思わず言葉を失った。友也の頬も更に赤くなっていき、ごくりと息を飲みながらも、目線は創から逸らすことができない。
そんな友也の『ガチ』な反応に、なずなは笑ってその場を和ませた。
「あはは、創ちん相変わらず可愛すぎるなぁっ! それで友ちん、今回はどんなCMになってるんだ?」
なずなに「友ちん」と名前を呼ばれて、ふっと我に返った友也は手元でぐしゃぐしゃになりかけていた台本を広げる。
「あ、はい! えっと今回も舞台は学校で青春の一シーンを切り取ったようなCMになってますっ!」
「今回はぼくが友也くんに壁ドンされちゃうシーンもあるんですよ。またドキドキです……♪」
「壁ドンっ? オレ、壁ドンならドラマでやったことあるんだぜ~っ!」
光は、先輩らしく胸をドンと拳で叩きながら、以前ドラマで『いけめん』役を演じた際の話をしだした。
「うん、光のドラマもかっこよかったから、参考にしようって今創と話してたところだよ」
「えっへん、なんでも聞いてほしいんだぜっ! ……あれ? でもそういえば二人も壁ドン、前にしてなかったっけ?」
光はふと、頭の中に過った映像を思い出す。それに、あぁ、とすぐに反応したのは創だった。
「光くんのドラマを見た時、ぼくが友也くんのことを押し倒したやつですかね」
突然出た『押し倒す』なんてワードに、カメラの向こうに控えていたスタッフから『その話くわしくっ』というカンペが見せられる。そこですっとサポートに入ったのはなずなだった。
「寮の共有ルームで、みんなでドラマを見てた時に光ちんの真似してたんだよな。いつものじゃれ合いみたいな感じで。でも創ちんって何やっても可愛いから」
「ふふ、あの時は光くんみたいなかっこいいを目指したんですけどね~」
そんな風に話がいつもの和やかな方向へ進んでいくと、CM撮影のスタッフから二人に呼び出しがかかった。
「じゃあ撮影、がんばってきますっ!」
「オレたちも裏側に潜入しにいくんだぜ~っ!」
カメラに向かって、そう挑むポーズをきめた瞬間「カット」と声がかかり、Ra*bitsちゃんねるの収録は止まる。
「よし、ちゃんねるの方は一端ここでおわりだぞ~! お疲れみんなっ」
「ああもう、光っ! 台本以外の話しすぎだぞ」
「ええ~~~でも色んな話した方が盛り上がるんだぜ。それに友ちんだって固まって返せないときあったし」
「そ、それは……!」
カメラが止まった途端に始まった友也からの小言に、光は思わず反論する。それに「まぁまぁ」と間に入ったのは創だった。
「ちゃんねるの方の収録は、前半と後半でわけるんですよね?」
「ああ、撮影前の今のエピソードで前半。後半は撮影中の様子と終わった後の軽いインタビューだ。後半は俺たちの撮影中ずっとちゃんねるのカメラが回ってるから、油断しちゃだめだぞ」
「うう、緊張です……でもいい宣伝にもなりますしね! がんばります!」
そう創が可愛く意気込んでいると、なずながふとあることに気付く。
「そういえばいつものやつ、今回はやらなくていいのか?」
「あっそうだった、創、光、並んでっ!」
そうして四人集まると、カメラに向かって微笑む。
「Ra*bitsちゃんねる、ちゃんねる登録といいねボタンをクリック、よろしくお願いします! ぴょんぴょん♪」
この「Ra*bitsちゃんねる CM 収録の裏側に潜入! 前編」は公開されるとファンの間では大きな話題になった。
一部のファンは「ありがとう、Ra*bitsちゃんねる……」と天を仰ぎ、また別のファンは「友創尊い」と五体投地をしながら拝む。
この回は神回と称され、視聴者数が今も伸び続けている。
END