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    sayuta38

    鍾魈短文格納庫

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    鍾魈短文、七夕

    #鍾魈
    Zhongxiao

    七夕 降魔が終わったら、碧水の原に来てくれないか?
     昼間望舒旅館へ来た鍾離はそれだけ魈に伝えると、どのような要件かも伝えずに去ってしまった。その場所で呼び出されることに一体どんな真意が? などと思いつつ、日が暮れると同時に降魔へ向かう。今日は何故かいつもよりも魔が多く、屠るのに時間が掛かってしまった。終わった頃にはすっかり夜も更け、ふと空を見上げれば眩い月灯りと、無数の星が地上を照らしていた。鍾離を随分と待たせてしまったことに少し罪悪感を感じながら碧水の原へと疾風のように宙を駆け向かう。璃月港から随分距離がある地なので、鍾離は既にもう帰っているかもしれない。
    「あ、鍾離様……申し訳ありません。遅くなりました」
     碧水の原に着き辺りを見渡すと、鍾離はまだそこにいた。草花の上に座して、空を見上げている。魈が声を掛けると、こちらを振り向き優しい笑みを浮かべていた。何故かいたたまれなくなり、衣服についた砂埃を手で払った。
    「謝らずともよい。今日は魔の動きが活発だったと見える」
    「そうですね、祭りの日でもないのに、どうしてなのでしょうか」
    「今日……いや、もう昨日になってしまったが、七夕だったからな」
    「七夕と何か関係が?」
     七夕と言えばお伽噺もあることくらいは魈も知っていた。だからと言って凡人が何か催しごとをする日であることは別段感じていなかった。
    「最近の璃月では、七夕は好きな者と共に過ごす日となっているそうだ」
    「そうなのですか……」
     凡人の伝承は時に湾曲し、都合の良いように改変されることは多々ある。いつの間にやらそのような日になっていたとして、魈のすることに影響はない。
    「まぁ、隣に座りなさい。茶でも飲もう」
    「はい」
     鍾離の隣に少しの空間を空けて、魈は座り込む。風の音もなく、少しばかり波の音が聞こえる、とても静かな空間だった。
     鍾離は既に茶を嗜んでいたようだった。魈のために用意してたであろう湯呑みを手に取り、茶を淹れ手渡してきた。恐れ多いと魈は手に取るのを躊躇っていると、どうした? 俺の茶は飲めないか? と言われてしまったので仕方なく受け取った。勿論鍾離の淹れる茶の味を心配している訳ではない。
     共に並んで茶を飲む。ということが恐れ多いのだ。
     しばらく渡された茶を眺めていると、これは本当に自分が飲んでも良いものだろうかといった考えが浮かぶ。
    「魈、もう少し近くに」
    「は!? はい」
     さり気なく腰に手を回され、ぐい、と引き寄せられる。肌が触れ合ってしまいそうな程の距離感に、身体が熱くなって俯いてしまう。
    「茶は嫌いだったか?」
    「ひっ、いえ、そういう……わけでは……」
     耳元で鍾離に囁かれ、肩が跳ね上がる。触れられてもいないのに、耳がじんじんする。
     鍾離様はどうされたというのか。鍾離様が飲んでいるのは茶ではなく酒なのか……?
    「飲みます、ので、ご容赦ください」
    「何を容赦する必要が?」
    「ぁ、だから、その、耳元で喋るのを」
    「魈」
    「っ、あ、の鍾離様、ほんとうに」
    「はは。すまない。揶揄いすぎてしまった。今日の茶は精神を落ち着かせる効果があるそうだ。飲んでみるといい」
    「……いただき、ます……」
     そう言って鍾離がぐい、と一気に茶を飲んで空を見上げたので、ようやく解放された魈も深呼吸をしてから茶をくぴり、と口に含んで味わってから嚥下した。少し清涼感のある茶だった。
     鍾離と同じく空を見上げ、星々を眺める。広大な空を眺めていると、段々と自分の心も落ち着いてくる。安らぎを感じる、ゆったりとした時間だった。
    「……鍾離様、何故この場所だったのですか?」
    「そうだな。璃月港は大事な人と過ごす時間として賑わっていたし、人里を離れ、仙人の居場所や魔神の封印した場所から遠いところ……と思って今日の場所を選んだ。お前は静かな所が好きだろう?」
    「そうでしたか。仰る通り、静かな夜で我は好きです」
    「俺もお前のことは好いているぞ」
    「……我を揶揄うのはお止めください」
    「嘘ではない。でなければわざわざ七夕の日にお前に会いにいったりはしない」
     何と返事をしたら良いかわからず、思わず魈は黙りこくってしまった。鍾離は先程、七夕は好きな者と過ごす日だと言っていた。だから誘ったのだと。
    「我も……お慕い申してはおります」
     これが、魈の精一杯の返事だった。
    「ならばなんの問題はないな」
    「問題は、あります」
    「魈」
    「駄目です」
    「魈」
    「いけません、んン」
     業障を宿した魈は鍾離の隣になど、とてもではないが居られる訳はない。それを伝えようとしたのに、口を塞がれてしまった。ふんわりと香る茶の匂い。鍾離の温かい手のひらに頬を包まれ、深く口付けられる。これを拒否する術など、魈は持ち合わせていなかった。
    「好いてる者に年に一度しか会えぬのは、辛いな」
     ぽつりと鍾離が呟いてぎゅう、と抱き締められてしまった。凡人になった鍾離は、神であった頃とは時間の感じ方が違うようだ。
     勿論魈も同じ気持ちではある。鍾離に会えるのは単純に嬉しく思っている。しかし、恋愛ごとに現を抜かす訳にはいかない。魈はこの気持ちを受け取ってはいけないし、伝えてもいけないのだ。
    「……我は、降魔に戻ります。先程のことは、どうかお忘れください」
    「魈!」
     鍾離が引き止めるのも構わず、瞬きの間にその場を離れ、望舒旅館へと戻ってきた。逃げてしまった。でも、これが正解なのだ。
     もし、年に一度だけでも鍾離との逢瀬が叶うなら、神や業障など関係なく会うことが許されるのなら、それはとても幸せなことだと、魈は思うのであった。
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