落日「つまり卿はこう言うのか」
最高級の象牙を彫り込んだ様な、男にしては美しい指先がするりと頬を撫でた。見下ろす金銀妖瞳は冴え冴えとして組み敷いた男の肌を舐める。まるで猛禽が獲物を前にどこを引き裂けば柔く美味い肉にありつけるのか品定めをしているようだった。
そう、オスカー・フォン・ロイエンタールは猛禽だ。薄い笑みを湛えるトリスタンの主は、鋭く研いだ爪を隠し持つ一羽の鷹である。
「数年前に亡くなった奥方を、今でも愛していると」
頭上で纏めあげた両の手首を掴む手に力が篭った。屈強な男が二人、身体を預けたソファが身動ぎの度悲鳴を上げる。体術には些か自信のあったワーレンだが、両腕の自由を奪われ体重を掛けられた状態では如何ともし難かった。解放を求め身体を捩り、けれどどうする事も出来ず臍を噛む僚友の姿にロイエンタールは冷笑を一層深める。
1984