出かけませんか?手元のスマホをちらりと窺った五月雨はそのままこちらの顔を覗いてくる。
「頭」
「んー」
少し前から何やら様子を伺われているのは分かっていたが、返事をしておきたいメールが何件かあったのでスルーしていた。今すぐにしなくてはいけないメールでも無いけれど、まとめてやってしまった方がいいだろうと彼女は小さな板と向き合っていた。
「頭、出かけませんか?」
「んー」
「天気も良いですし」
「うん」
「……頭」
「もうちょっとだけ待ってて」
やはりそういう話だったかと、人差し指を画面に滑らせて誤字を直す。本当は朝から言いたかったんだと思う。それに気づいてはいたけれど、でもその誘いに乗ったら作業の予定が潰れる自信があったので見ないふりをし続けて、今である。一応、一番ヤバイ作業については待ってくれていたのだから誘いに乗ってもいいのだけれど、このメールだけはやり切ってしまいたいという気持ちが強い。やめてしまったら次このやる気がいつ出るか分かったものでは無い。
「……」
覗き込んでいた五月雨が離れていく気配がしたので納得してくれたかなと適当な絵文字を選んでいると、後ろから突然手が回ってきてそのままぎゅっと抱え込まれてしまった。
「え!!……えぇ?!」
慌てる彼女を逃がさないようにとしっかり腰あたりをホールドしてくる腕。挟み込んでくる足と肩に乗る頭。あったかくて擽ったくて恥ずかしくて息が止まりかける。
「では用事が終わるまでこうしてますね」
「………ひぃ」
追い討ちのように恐ろしいことを言われて彼女は全くスマホに集中できなくなってしまった。呆然としているうちに画面から光が消える。
「五月雨……」
「はい」
「で、出かけない?」
彼女の言葉に一瞬ぴくりと反応した五月雨は肩にぐりぐりと頭を擦り付けて来たので「ひょわ!」と彼女の口からは変な声が漏れた。
「……もう少しだけ、待っててください」
「うぅ……」
ひときわ丁寧に囁かれたそれが意趣返しと分かるから仕方なくまたメールを打とうとしたけれど、一文字も進まなくなってしまった。