雪とマフラーと五月雨廊下を横切っていくジャージ姿に彼女は思わず待ったをかける。
「五月雨!もしかして外行くの?」
「はい」
当たり前のようにそう返事をした男に彼女は頭を抱えた。昨夜から降り始めた雪はしっかりばっちり積もりに積もり、本丸の庭を美しく白に染め上げた。五月雨以外にも外に行くものはいたし、雪が好きなら楽しんだらいいと思う。防寒をきちんとするならば。
「……その格好で行くの?」
「はい」
「……」
五月雨は江揃いのジャージを着ている。流石に半袖では無いものの、上下ジャージだけ。他に防寒具は身につけていない。五月雨はかなりぎりぎりの時期まで半袖だったし寒さには強い方なのだろう。とはいえ絶対風邪を引かないわけではない。刀剣男士も風邪を引くことは今までの冬を経てきた彼女はよく分かっている。冷たさを感じないわけではないはずだし、何より見ているこちらが寒さを感じてしまう。
「ちょっと待ってて」
彼女はすぐそこだった自室に飛び込むと箪笥を開けては閉めて何か無いかと探る。流石に上着はサイズ的に無理。みちみちどころの話ではない。袖すら通るか怪しいものだ。となると。
「はい。これつけてって」
部屋から廊下に戻ると冷えびえした気配が体を取り巻くから、よくこんな薄着で本丸の中とはいえうろうろしているなと思う。これで外に行くなんて正気の沙汰では無い。
「襟巻きですか」
「これもこもこで、めちゃくちゃあったかいから。ほら」
「?」
「屈んでよ」
巻けないでしょ、と催促すればキョトンとしていた五月雨が瞬きふたつ。パァッと嬉しそうな笑みに切り替わる。
「首輪をつけてくださるのですか」
「首輪じゃない」
膝を曲げて首を下げて彼女が巻きやすい姿勢になってくれた五月雨にくるくるとマフラーを巻いていく。もこもこに包まれる五月雨はなんだか可愛らしい。更に可愛さを追加しようとリボン結びでマフラーを纏める。ぽんぽんとりぼんを軽く叩くと彼女の触れたそこを辿るように五月雨もそっとリボンを撫でた。
「頭もご一緒にいかがですか」
「行きません」
「ふふふ。では、後で季語を届けに参りますね」
マフラーに埋もれた向こうで目を細めて笑う五月雨を見て、これもきっと季語だと思いながら「待ってるね」と彼女は手を振った。