Day.1【手を繋ぐ】 冷たい風が頬を撫でる、冬の夜。ほう、と息を吐き出せば白く浮かび上がり、澄んだ寒空へと消えていく。ジッポライターで火を灯して、ゆらりと昇った煙草の煙もまた白く、銃兎はその煙を深く吸い込んでから、ゆっくりと吹かした。寒い中で吸う煙草は妙に美味しく感じる、と銃兎は思う。カラフルで華やかなヨコハマのイルミネーションも輝きを増す気がするのだ。美術鑑賞が好きな銃兎にとって、こうして美しく彩られた街を眺めることの出来る冬は好きだった。
時計を見ると、時刻は十九時半。比較的早く仕事の片付いた今日は、左馬刻と待ち合わせをしていた。特に何処に行くと決めているわけではないが、それくらいの方が俺たち二人にはお似合いだろう。
「クソさみぃ……」
間もなくそう言いながらやって来た待ち人は、いつものアロハシャツ一枚とまではいかないが、十分薄着の格好で鼻先を赤くしながらやって来たので、銃兎は思わず笑ってしまった。
「……ンだよ」
「寒いんならもっと厚着すればいいのに」
「これでも俺様的には厚着なんだっつの」
左馬刻は銃兎に肩を寄せて暖を取ろうと凭れかかってくる。
「全く、仕方の無い王様ですねぇ」
銃兎はそう言うと、自身の首に巻いていたマフラーを外して、代わりに左馬刻の首に巻いてやる。
「でも好きだろ?」
「ええ、好きですけど?」
正面から見つめ合って、どちらからともなく引き寄せられるように唇を合わせる。そしてお互いにフッと笑ってから、銃兎は先程まで手袋に包まれて暖められていた手を左馬刻に差し出した。
「こうしてみると、冬の寒さも悪いことばかりじゃないだろ?」
ほら、と手を揺らして促せば、左馬刻のすっかり冷えていた手が握られる。銃兎はそれを包むようにぎゅっと握り返して、二人はそのまま夜の街へと消えていった。