夜の攻防戦　虎がオレを睨んでいた。
　初めて目が合った瞬間から、虎はオレのことを嫌っている。
　お前のご主人様は今オレに啼かされているというのに。

　「ん、ぁんっ、ひぁッ…！」
　欲にまみれた音に重なる一虎の熱い声。
　汗と唾液と精液が混ざり合ったセックスの匂いが鼻を刺激する。湿った肌がぶつかり吐いた息がお互いにかかるだけで部屋の湿度は高くなっていく。
　一虎の蕩けた瞳がオレを射抜く度に、一虎の中にオレの欲を吐く度に、一虎の肌にオレのモノだという証をつけたくて堪らなくなる。だが虎がそれを許さない。虎はいつだってオレのことを睨んでいる。まるでオレから一虎を守るように。
　虎と目が合った瞬間、またもやオレはあの時のことを後悔した。

　暑さの残る九月だった。
　知り合ったばかりの一虎をオレの家に呼んだのは。
　何をしていたか覚えていない。ただあの時、うっすらとかいた汗のせいで髪の毛が張りついた真っ白い一虎の肌に、オレは噛みつきたくて仕方がなかった。目の前の甘やかな誘惑に、負けてしまいたかった。なけなしの理性とくだらない常識がオレの本能を邪魔したことを、今も後悔している。
　初めて一虎の肌に噛みついたのは一虎の首に虎が現れた後だった。一虎の身体につく初めての印はオレのモノが良かったのに、黒い虎に先を越された。
　黒い虎はオレを睨んでいる。まるでオレを嗤うかのように。

　「ばぁ、じぃ、んっあっ、ばじっ」
　一虎がオレの名前を呼んでいる。その細い腕をオレの首に巻きつけて。名前を呼ばれる度に、脳に痺れる快感と名前のない虎への優越感が走った。
　「一虎」　
　「んっばじ、ばじぃ♡」
　オレが名前を呼ぶとさらに甘い声が返ってくるものだから、さらに虎への優越感は増してくる。部屋の温度も湿度もいよいよ高くなってきた。オレの手によって一虎は既に甘くドロドロにとけている。
　それでも黒い虎はオレを睨んでいる。まるでまだ負けていないと言うように。
　「あっ、そこやっ、ぁ、んン～ーーッ、！」
　一虎の身体を貫く。深く、深く。今まで以上に。一虎の身体が大きく跳ね、その爪がオレの背中を引っ掻いた。お返しと云わんばかりに一虎と身体を繋げたまま一虎の硬い胸を吸う。
　「ひゃ、っ、んっあっ、やっ…！」
　薄い桃色の突起を歯と舌で虐める度に一虎の口から女のような声が漏れた。
　嬌声をあげる一虎の胸に朱い印をつけていく。真っ白な肌に朱い印をつけているのがオレだという事実に高揚しないワケがない。当然のようにオレを睨む虎が居なければ。
　虎に冷ややかな視線を送られる度にいつも思う。どうせこの印は消えてしまう、と。
　一生消えない黒い虎は余裕綽々、オレを見る。オレがどれだけ願っても、この虎に勝つことはできない。一虎がスミを入れたその日からこの虎はいつでも一虎の一番近くにいる。消えることのない黒い虎は、常に一虎の一番近くに寄り添って周りの奴らを牽制しているのだ。
　ライバルは勝者の余裕か、まだオレを見ている。だが一虎のことでオレが負けるつもりは一切ない。
　「いっ…～ーーッ！ァ、は、ンんーっ！」
　黒い虎に噛みついた。
　その下の一虎の白い肌をオレの歯が突き破る。口内に広がる一虎の味を堪能してごくりと呑み込むと同時に、一虎の中のオレのモノが締め付けられて快感が襲ってくる。その快感に任せてさっきよりも深い場所で欲を吐き出した。
　濡れたモノを引き抜いて軽く身体を起こすと、オレを睨む虎と目が合った。残念、虎が一虎の味を知ることは永遠にない。
　黒い虎はオレを睨んでいる。まるで悔しがるように。
　黒い虎に嗤いかける。第一ラウンドは引き分け。

　結局第四ラウンドまでやったが結果は引き分け。オレのライバルはなかなか手強い。