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    mizuki_mir

    鯉登さん右のなにかを書いています

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    mizuki_mir

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    いつもきかない私の少尉殿!
    開催おめでとうございます。

    新作のできてるところまで公開します。
    特殊設定ですがグロくはないとは思います…がなんでも許せる人向け。
    まだ誰も出てきてない
    タイトルから察してください。

    #月鯉
    Tsukishima/Koito

    ねこ!ねこ!ねこ!【ゆめうつつ】



    私を撫でる手は、優しい。
    うつらうつらと陽だまりの中にあって、薄く目を開け、眩しさにすぐまた閉じる。
    最近の中では一番上手に撫でてくれる、この男の手が好きだった。

    家は決まっていないけれど、どこかの家でご飯をもらい、少し接待してやり、また好きなところに散歩に行く。
    撫でるのは誰でもいいわけじゃない。構われ過ぎず、弱すぎず、強すぎず、いい塩梅の。柔らかい手も、硬い手もたくさんあった中で、最近のお気に入りは、この男のところだった。

    色々な家に顔を出す私のことを、みな好きなように呼ぶので色々な名前があるけれど、この男は私のことを呼ばなかった。

    「また撫でてるの」と家族に聞かれた男は、短く「ああ」と返した。
    「好かれているのね」

    それに私は是の気持ちを伝えてやりたくなり、ゴロゴロと喉を鳴らす。
    餌もあげていないのに懐いているよね、と笑う家族に、「なにかないのか」と男が聞く。
    この家は裕福でないことは知っていたので、立ち上がる。

    「にゃーん」

    そんなことは、求めていないのだ。
    私のことを、撫でてくれれば。
    大切なものを撫でるように、撫でてくれればそれで。
    伸ばされた手に、頭をすり寄せる。

    「お前は人の言葉が分かるみたいだ」

    当たり前だ。もう何度目かの命なんだから。
    たくさん言葉を聞いた。自分が上手に生きるために。危険から逃れるために。安全に生きるために。

    優しい人に寄るといい。言葉を荒げない人がいい。いたずら好きの子どもがいない家がいい。

    この男のように、優しい目をしてこちらを撫でる人がいい。






    火事で男の家が焼けた。
    暗い夜に怒鳴り声が響いて、煤けた匂いが辺りに充満していて、煙から遠くに逃げて、同じように逃げてきた他の猫と身を寄せ合って眠った。
    目が覚めたときには薄明りで、大きな声はもうしなかったけど、燻ぶった匂いは離れていなくて、もう一度目を閉じる。

    気づいたときには何もなくなって、誰もいなくなって、あの男もどこかに行ってしまった。
    死んだのか、助かってどこかに越したのかも結局分からないまま、私は色々な家に行って、たくさんの人に撫でてもらった。けれどもう、あの手には撫でてもらうことはなかった。

    きっと忘れてしまうのだ。こんなにたくさんの人に撫でてもらえて、覚えていられるとは思えない。うつらうつらと、日向に座って、目を閉じる。



    あぁ、この手だ。
    突然思い出した、自分を撫でる手は、男の手だった。
    あれからずっとずっと時が経って、自分がどれぐらい生きたかも、あっという間だったかも覚えていない。

    この手が好きだ。
    ごろごろと鳴る喉に、男の雰囲気が少しだけ和らいだのを感じた。
    覚えていた、ずっと忘れていたけれど、この手が、自分を撫でるのが好きだ。
    ふと目を開けると、こちらを見る男と目が合った。
    こんな顔だったかな。どうだったかな。前の男の顔は忘れてしまったけれど、今度は忘れないようにしようと思う。でもきっと、また、手で分かると思うけど。

    この家は普通の家で、困窮することもなく、ちゃんと食べていける家だ。
    男の背から、もう一人幼い頭が生えた。娘だろうか。

    「もう一匹増やすの?」
    「どうだろうな。あいつもうちに住んでる訳じゃないだろう」

    落ち着いた声にうとうとしかけながら、しかし聞き捨てならない台詞に耳を立てる。
    もう一匹ってなんだ?誰のことだ?
    フンフンと撫でている手の匂いを嗅ぐが、それらしい匂いはしない。
    さっき手を洗ったからなあ、と呑気な声が降ってくる。
    こちらの意図が伝わっているようだった。
    ここが普通の家なら、苦労を掛けないなら、居着いてもいい。
    今まではずっと野良だったけど、この男に負担が大きくかからないなら、此処にいたいと思った。
    けれどもう一匹家族がいるなら、話は別だ。
    既に家族だと、相手が思っているなら、自分はここに居着く権利はない。
    やだな。今度は一緒に住みたいと思ったのにな。
    ちょっと寂しくなりながら、目を閉じて、飽きるまで撫でてもらった。
    ご飯を準備される前に、他の家に向かって歩き出す。
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    ぎねまる

    MOURNING初登場前の、苛烈な時代の鯉登の話。わりと殺伐愛。
    過去話とはいえもういろいろ時期を逸した感がありますし、物語の肝心要の部分が思いつかず没にしてしまったのですが、色々調べて結構思い入れがあったし、書き始めてから一年近く熟成させてしまったので、供養です。「#####」で囲んであるところが、ネタが思いつかず飛ばした部分です。
    月下の獣「鯉登は人を殺したことがあるぞ」

     それは鯉登が任官してほどない頃であった。
     鶴見は金平糖を茶うけに煎茶をすすり、鯉登の様子はどうだ馴染んだか、と部下を気にするふつうの・・・・上官のような風情で月島に尋ねていたが、月島が二言三言返すと、そうそう、と思い出したように、不穏な言葉を口にした。
    「は、」
     月島は一瞬言葉を失い、記憶をめぐらせる。かれの十六歳のときにはそんな話は聞かなかった。陸士入学で鶴見を訪ねてきたときも。であれば、陸士入学からのちになるが。
    「……それは……いつのことでしょうか」
    「地元でな──」
     鶴見は語る。
     士官学校が夏の休みの折、母の言いつけで鯉登は一人で地元鹿児島に帰省した。函館に赴任している間、主の居ない鯉登の家は昵懇じっこんの者が管理を任されているが、手紙だけでは解決できない問題が起こり、かつ鯉登少将は任務を離れられなかった。ちょうど休みの時期とも合ったため、未来の当主たる鯉登が東京から赴いたのだ。
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