Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    koshikundaisuki

    DONE広尾のせいで散々な目に合わされ続けている潜くん
    警察署で蕎麦を食う「潜尚保さんの身柄を●●警察署にて預かっています」
    電話口の男は淡々とそう言った。俺はそれに負けない抑揚のなさで「なるほど」と返した。電話口の男は一瞬黙り込んだ。これで次の瞬間、「信じておられないようなので潜さんに代わります」とか言って「広尾さんすみません俺、妊婦を撥ねちゃって。今日中に示談金300万振り込んで欲しいんです」って全然知らない声が聞こえてきたら面白いのにな、と思ったけど、男は「過去にもこんなことが?」と訝し気に尋ねてくるだけだったので潜の名誉を思い「俺の知る限り、警察のお世話になるのは初めてだと思いますけど」と答えるしかなかった。

    男はそれから誰に代わることもなく、「お手数ですが、●●警察署へお越しいただけますか。」とだけ言って電話を切った。事件の話も口座の話も一切されなかった。それから俺は、騒がしい居酒屋に戻り、「同居人が捕まったから帰る」と言って適当に金を卓に置き、説明を求める同級生たちのことも置いて夜の渋谷を抜け出した。内心そこまで焦りはしてなかったけど、タクシーの運転手には目的地を伝えた後、「あー、急ぎ目で」と頼んだし、運転手もバックミラー越しに「え?」という表情を浮かべたあと緊張感に満ちた声で「違反にならない範囲内で、頑張ります」と言った。
    8635