Delicious?国際大会の最中、情報収集を兼ねて各国の選手達のSNSをチェックしていると見間違えるはずのない顔に目がとまった。
「日本の寿司は最高だ!」とポーランド語のメッセージが添えられた写真の、肩を組んだ大男達の間に埋もれるようにして座っているのは間違いなく恋人だった。写真を拡大して額までほんのりと赤くなった顔を見ながら、グラスに入っているのはビールか日本酒かと確認している自分の姿は随分滑稽だが、もう半分職業病みたいなものだ。次のラウンドに向けてとっくに海を渡ってしまった相手にメールを送ると、トレーニングの合間に電話が来た。
『だってあいつら、せっかく日本に来たんだから寿司がいいって言うんだよ』
マメにSNSを更新してくれる彼のチームメイトのお陰で、その前に都内をあちこち観光していたのも知っている。移動はタクシーだったのかもしれないが、あれだけの体格の選手達がまとまって歩いていたらさぞかし目立っただろう。
「やっくん、ほとんど日本にいないのにいつお店探してんの」
『店?あぁ、リエーフに聞いた』
なるほど、たしかに彼ならば流行りの店の一つや二つ教えることは容易いだろう。高校生の頃、夜久とリエーフは先輩と後輩というより鬼軍曹と新兵のような関係だったが、大人になった今は気の置けない友人として仲良くしているようだった。すっかり売れっ子モデルになったかつての後輩は、海外で仕事をする機会も多く、互いに情報交換をしたり共有できる悩みも多いのだという。同じ生業でないからこそ、返ってそれが良い塩梅なのかもしれない。夜久が初めて海外に行くと決まった時に、ロシアにいる親戚に現地の情報をあれこれ聞いて連日のようにメールをしたり、新しい仕事が決まっては報告したりと、まめに連絡を取り合っていることは黒尾も聞いて知っていた。本人からと、どういう訳だか幼馴染経由で。
「最近俺ちょっと調子乗ってんなと思ったら、夜久さんに叱ってもらうんです。そうすると謙虚な気持ちを思い出すんで。出来たら褒めてほしいスけどね」
黒尾さんもですよ、と、真顔で言うものだから思わず笑ってしまう。世間一般の知名度で言えば今や彼の方がよっぽど有名人だというのに、結局いつまで経ってもリエーフは黒尾にとっても可愛い後輩だった。ただ、叱られたいという気持ちも分かる気はする。夜久は何でもはっきり言うし、お世辞で励ましたりしない。ダメな時はダメだと言うから、自分は気遣いの足りなさに喧嘩になることもある。だけど、その分褒められた時は本物だから、とてつもなく達成感が感じられるのだ。昔から夜久は、飴と鞭の使い方が昔から絶妙だった。
それはそうと、多少は自分の事を頼ってくれても良いんじゃないのという気持ちもあって。
「俺だって美味い鮨屋くらいご案内できるんですけどね?」
ちょっとは自分の存在を思い出してくれてもいいんですが?と電話口でこぼしてみれば、間髪を入れずに答えが返ってくる。
『それはお前と2人で行けばいいだろ』
なんて。そういうところが、いつも心を捉えて離さないのだ。