「 」
ああ、またこの夢か、と目の前に広がる光景を眺めている。俺は夢の中で俺ではない誰かになって、もう一人と話をしていた。なんの変哲もない日常の風景の時もあれば、神と戦うような壮絶な夢の時もある。もう一人の姿もその時々によって様々で、男の時もあれば女の時もあり、瞳や髪の色、顔立ちも共通点はない。たった一つ分かることは、俺はその人をとても大切に思っていたということと、どんな人生を歩んだとしても、必ず死に別れる事になってしまうこと。
この不思議な夢は、俺が物心ついた時から見ている。初めて見た時は人物も世界も曖昧で、そういう夢を見たとぼんやり覚えているだけだった。明確に鮮明になり出したのは五社学園に入学してから。厳密に言えば、由良に出会ってからだ。うららかな春の日、桜舞う花曇り。埋め尽くす人びとの中で、海のような深い紺碧の瞳を、初めて見つけた時のことを今も鮮明に覚えている。あの時、俺の魂が叫んだ。ずっと彼を探していたのだと、ずっと彼に会いたかったのだと。身体が勝手に動いて、胸の内から湧き上がる衝動のままにその手を掴んだ。由良はひどく驚いた顔をしていて、俺はようやく自分が何をしているのか理解した。正直あまり良い出会いであったとは言えないが、それでも彼との親交は続いている。
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