新ミケレオ手全体を覆う包帯が最後の結び目を造り、上から撫ぜられるとこそばゆい感覚だけが残った。
「はい、終わり。でもこの指だけ爪にヒビが入ってるから治るまで武器は握らない方がいいよ」
「ありがとうドニー」
不格好な線の入った右手の指先は、包帯の中に感じる裂傷の名残を思えば痛みなどなかった。
でも確かに少し拳を握っただけでビスケットみたいに砕けそうな風体をしている。
治癒が通常の人間より早いとはいえ悪化させる必要もないし、今日の修練は先生に言って少し変えなければいけない。
「………言っとくけど武器持たなきゃいいってわけじゃないからね?安静にしてろってことだよ、わかる?」
そんなレオナルドの内心を読まれたのか言い加えたドナテロの後ろで、騒がしい声と音が響いた。
「あ、レオ手当終わった!?オイラいいもの持ってきたんだ!」
ミケランジェロの手に収まるには小さすぎる小瓶。
オレンジ色の液体が入った蓋は可愛らしくハートの形に象られている。
それがなんなのかわからず首を捻るレオナルドの代わりにドナテロが口を開いた。
「マニキュア?確かに爪をコーディングするものだけど、まさか勝手にエイプリルのところから持ってきたの?」
目を吊り上げたドナテロにミケランジェロは慌てて手を振った。
「ちゃんとお願いして貸してもらったよ!ほら、レオ手出して!!」
その反動で瓶を握り潰しかねなかったが、案外その瓶は強度が高いらしい。
レオナルドが何かを言う前に包帯塗れの手を取ったミケランジェロは随分と乗り気のようだった。
「ま、待ってくれマイキー!それはその、治療に必要なのか?」
そう言いつつドナテロを見る。
話を聞く限りお洒落に使うもののようだし、治療用途に使うには適さないように見えた。
「あー、うん。いいんじゃない?」
「あ、…おい、ドニー!」
曖昧に答えたドナテロは手早く救急箱を片付ける。
ミケランジェロにしっかりと手を握られたままのレオナルドは立ち去ろうとするその背を掴むことはできなかった。
ミケランジェロは上機嫌に片手で器用に瓶を開くと今まで嗅いだことのないツンとした匂いが鼻につく。
ハートの瓶頭はオレンジに染まったブラシもついていて、それが自身の爪に触れると冷たいような感覚は一瞬のこと、存外器用に爪の上を色が描いていく。
何度か上塗りされると見た目上痛々しく見えていたひび割れは見えず、艶やかな光沢を放っていた。
「はい、終わり。固まるまでこのままね。それとも全部塗っちゃう?」
なんてミケランジェロに言われていたがレオナルドは珍しい自分の手の様子にあんまり話を聞いてなかった。
どのみち下からわし掴みにされたミケランジェロの手で動かしようがない。
「なあ、この色しかなかったのか?」
燦燦としたオレンジ、西日に照らされた貯水タンク、そして目の前の顔に塗られた橙色。
そのどれもが連想するには目の前の弟のことだ。
「え、いっぱいあったよ?エイプリルはオシャレだからね」
「それじゃぁ…」
「なんでだと思う…?言ってみてよ、レオ」
そう嘯いて笑う顔は無邪気なようで、マスクの下の眼は逃がさないとばかりにレオナルドを射貫いていた。
言葉に詰まるのはレオナルドが思ってしまったからだ、所有印のようだって。
でもそれを認めるということは自分がミケランジェロに所有されていることになるような気がして、そんなの言えるわけがない。
でも意図的を持って指をなぞる手はつい先日握られた汗ばんだ手を思い出されて、レオナルドは見ていられずに視線を逸らす。
敵前逃亡なんて本当にらしくない、無邪気な策略にはいつも振り回されてばかりだ。
長男に首輪かけられるの末っ子だけだと思うのです
この後カライちゃんに相対した時に揶揄われて欲しいっすねぇ~~~