花吐き病×プランツドールpsyborg花吐き病✖️プランツドール
「うん、今日も綺麗。早く運命の人に出会えるといいね、浮奇」
新しく越してきた街は、近くに遺跡が多く、歴史も深い。
この街の図書館は歴史と知識とロマンにあふれていると評判で、思い切って越して来てよかったと風に吹かれながら手に持った荷物をがさりと抱え直した。
街並みもレトロな感じなのがまたいいな、とこれから住む街の景色にも満足気に頷いた。
さて、暫くは荷解きなどで家に引き篭もることになりそうだ。
食糧を買い込み、最低限の生活が出来るようにしなくてと頭の中で買い出し品を思い浮かべる。
ああ、でも一日くらいはサボってまずは図書館に足を運ぶのもいいかもしれない。
英気を養うのも必要だからな、と誘惑と闘いながら歩いていれば、ぼふりと足元に軽い衝撃が走る。
なんだ?と足元に視線をやれば、俺の足にぎゅうっとしがみつく小さな頭が一つ。
「どうした?迷子か?」
怖がらせ無いように優しく声をかけるも、離れる気配はなく、ふるふると首を振って余計に強くぎゅうぅっとしがみつかれてしまう。
どうしたものか、どうみても迷子だろう。
手を伸ばして鮮やかな紫の髪をくしゃくしゃと掻き回してやる。
「強がらなくてもいい、迷子なら一緒に両親を探してやろう。だから一回、足から離れないか?」
「…………………」
「っ!?…ドール、なのか…?」
俺の言葉に少しだけ身体を離し、ゆっくりと視線が合う。
くしくしと眠た気な目を擦りながら子供は余りにも美しく、人間離れしていた。
今までプランツドールを見た事はあるが、どのドールよりも美しいと感じる美貌を持っている。
そこに居るだけで人々を魅了してしまいそうな美しさは最早罪だろとすら思えた。
「……………」
子供は眠たそうな目のまま、俺の顔を見て安心したように、嬉しそうにふにゃりと顔を緩ませる。
美しさと愛らしさを兼ね備えた笑顔は、俺の心臓を跳ねさせた。
途端、ぐらりと大きく脳が揺れる感覚と、胸を迫り上がってくる吐き気に手から荷物が滑り落ちる。
立っているのも辛くて地面に膝を付いて口元を押さえる。
けどもう、これは手遅れだ。
やばい、まずい、だめだ…
俺はこのドールに…______________堕ちた。
「お、ぁ…っ!!ゔ…っぐ…っ!!」
「……!」
「は…っは…ぁ、…っ!!」
押さえることの出来ない吐き気に耐えきれず、蹲ってボロボロと口から花を吐き出す。
吐き出したのはドールの髪と似た紫で、小さな宝石の様にさえ思えた。
げほげほと咽こみ、何とか全て吐き出せば生理的な涙が溢れる。
心配そうに俺と花をオロオロと見比べていたドールは、ぎゅっと不安そうに俺にしがみつく。
大丈夫だと伝える様に優しく頭を撫でれば、眉を下げながら笑ったドールは俺の足元に散らばった花弁を小さな手のひらいっぱいに拾い集める。
宝物を見るかの様に目をキラキラさせ、一つの花弁を空に掲げた。
花弁を見つめる目は歓喜に揺れているかの様にすら思えた。
たっぷりと花弁を見つめたあと、小さく口を開け、ゆっくりと花弁を口にした。
うっとりと目を閉じ、もぐもぐと小さな口を動かし、こくりと嚥下する。
とろりと満足気に目を蕩けさせ、ドールは再び俺を見て笑った。
これが、俺とプランツドール…【浮奇】との出会いで、二人の物語の始まりでもある。