圭藤♀まったくこの子ったら、どこでそんな言葉を覚えてきたのかしら。
「充電充電充電、葵ちゃんちょっと充電させてよ〜!」
お菓子売り場のちびっこのごとく、ぶうぶうと駄々をこねまくるのは我が彼氏。今年4月にはれて16歳を迎えました、立派な男子高校生です。夕陽に照らされてやや幼くうつるものの、とてもわがままを連呼して許される年齢には見えません。
そもそも重い体を引きずっているのは俺も同じなんだけど、と、藤堂ははあーっと息を吐く。
部活の終わりの帰り道、イヤな疲労感はないものの、これから待ち受ける家事一覧を思い出すと気持ちはどうしても駆け足になる。
「そんなわめいたってモバッテリーなんか持ってねえよ!大体おまえんち、こっから徒歩5分だろうが!」
早くバイバイして、まっすぐただいまを言って、自分の部屋に転がりこめば解決だ。どうせスマホゲーばっかやってっから、放課後まで電池持たねえんだろうし。
ふす、とカバンを引っかけ直して進もうとするも、きょと、と要の時間が止まっている。まんまるな目をさらに丸くして、ペチャクチャよく回る口をぽかんとあけて、アホ面に拍車をかけている。
「なんだよ、その顔」
「え、え、葵ちゃん、マジで言ってる?」
はわわ、と一世一代の『この子本気かしら』顔に、はあ?と今度はこちらが空気を飲んだ。
だからね、と向き直った要が、俺の右腕をヨイショと広げる。
「は?なんだよ、オイ、」
「で、こっちもこう!ね!」
左腕も大きく広げられて、はためから見ればまるで揚げ鳥屋の白いオッサンだ。
「そんでー、充電はー、」
まあ、当事者の俺としては、
「こう!」
全然まったくどうにもこうにも、チキンどころじゃなかったけれど。
グイ、と意外な力で抱き寄せられる。
手ェつないだり頭撫でたり、別にスキンシップはめずらしくもなんともないのに、やけに心臓がバクバク騒いだ。
ふたりぶんの体温が暑い、あっちい、暑すぎる。密着していればバレる程度に汗もかき始めていたけれど、気にせず要の背中に腕を回した。
「……充電て、ハグかよ。ならそう言えよ」
「普通はみんな気がつくもんなの!葵ちゃんのクソまじめー」
「うるっせえ」
顔を埋めた肩がくつくつ震えて、つられたように力が抜けた。少しくらいなら、とかけた体重はやっぱりいとも簡単に受け止められて、みるみるごきげんメーターが上がってしまう。「あ、そういうやつなら俺も知ってるぜ、」、我ながら単純な女だけれど、きっとまあ、目の前のこいつとはお似合いなんだろう。
“大丈夫?おっぱい揉むか?”
ひそひそとささやけば、彼氏は弾かれたように顔を上げた。
「ちょっ……!まったくこの子ったら!どこでそんな言葉覚えてきたの!!」
沈むお日さまよりも赤い顔を、ケラケラと見つめてる。