※ギャグ時空、キャラ崩壊
※精神世界に長く居た所為でぐだ君の心の声が聞えちゃう伯爵のお話
※異星の神殆ど覚えてない発言を鵜呑みにして書いてます
※我が家のぐだ君はエレちゃんとかアステリオスくんとかドンキお爺ちゃんや柳生さんが好きな純情君です。(なんでカリオストロに落ちたの?)
※ぐだ君は伯爵に恋してます(尚伯爵は処女とする)
※途中で投げ出した話なので中途半端に終わります
以上、宜しければどうぞ
(今日のお昼何にしよう)
そんな何気ない声が空の内側に響く。自然と流れる視線は長い通路の先へと吸い寄せられた。
目先には黒い髪に白の制服を着用した一人の少年。己が内側を揺する残響、その元となる声の人物を瞳に捉えると、カリオストロと呼ばれている男は笑みを携えてその影へと近付いた。
「ご機嫌麗しく、陛下。これからお食事ですかな?」
「あ、カリオストロお疲れ様。うん今からお昼だけど…あの、もし良かったら一緒にどう?」
「ええ、是非」
にこやかに応えれば、少年は花を咲かせたように笑みを溢した。その表情を肯定するように、カリオストロの内側でも酷く浮かれた感情が否が応にも咲き誇る。
(良かった、何時もフランス組に絡みに行くから中々話かけ辛かったんだよな。今日こそ少しはカリオストロの事知れたら良いなぁ)
伽藍洞の内に響くそれは疑いようも無く目の前の少年の心の内で。行こうか、と先を促すその後ろ姿からは警戒の色など微塵も感じさせない。よもや自身の内情が本人すら預かり知らぬ所で漏れ出ているなど知る由もないのだろう。カリオストロは表情一つ変えることなく少年、藤丸立香の心をただ静かに聞いていた。
カリオストロがこの奇妙な異変に気付いたのは召喚されて直ぐの事だった。
何せ姿を顕すなり伽藍洞である己が内に、木霊する感情の波を経験したのだ。それは余りに新鮮な感覚で思わず目眩を覚えた程だった。
一体己の身に何が起こったのか。考える余地も無く流れて来る感情は酷く懐疑的で困惑を滲ませ、味方というよりまさに敵対者に対する負の感情そのもので。それが藤丸立香の心の声だと理解するのにさして時間は掛からなかった。
己が内は虚の様なもの響く物などありはしない。であればそれは紛れもなくパスの繋がった誰かの声、つまりマスターたる彼の声だと予想はつく。何より彼は正直者なのだろう、向けられる瞳が全てを物語っていた。過去幾度となく経験した疑いの眼差し。詐称者なのだから当然と言ってしまえばそこまでで。しかし幾ら素性が知れぬ身とはいえ、端から便宜の余地もない状況に立たされているとは思いもよらなかった。
幸いな事と言えば、この声が聞こえているのは召喚されたカリオストロのみで。何故、どうしてこうなったのか、原因は解らずともすべき事は直ぐに察した。
「お初にお目にかかります」
サーヴァントとして平伏し信用を得ること。
ましてや相手の心の内が手に取るように分かるのだ、詐欺師にとってこれ程好条件は無い。人心掌握何のその、一步ずつ心の内に歩み寄りある程度の信頼を勝ち得えるのは造作も無かった。
その過程で以前の己、イドでの記録を閲覧し自身に何が起こっているのか、何故こうも疑いを向けられているのか突き止める事が出来た。
霊基及び霊核の改造と改竄、そんな不安定な状態でマスターの精神世界に長い時間放り出されていた結果、この霊基に可笑しなパスが繋がってしまったのだろう。記憶が曖昧なのも霊基改竄の賜物か。無論ただの召喚時のバグと言う線もある、はたまた何らかの計略の可能性も捨てきれないが…、さて。
どちらにせよ、カリオストロはその不具合をダ・ヴィンチ達に報告することは無かった。
何故と問われれば至極単純、"興味本位"である。
詐欺師として今まで多くの偽りを纏って来た彼だが、果たして他人の心の内が見えていた訳では無い。全てはその性質と慧眼故のもの。ガワを被り見て呉を繕ってきただけだ。
だからこそ、人の内側に潜む混沌を自らの空に享受する感覚に興味が湧いた。己以外の声が感情が、伽藍洞に響く奇妙な感覚。
第一のプリテンダーである"彼も"この様な感覚を味わっているのだろうか?妖精眼と言う世界を切り替える能力、真実を映す瞳。ともすれば興味が尽きぬのは仕方なき事。イドでの己は道満殿の式神の性質を宿していたそうだが、今は改竄の影響で記録の多くを失っている。この己は元の伽藍洞、空の器でしかない。であればこそ興味本位で味わってみたいと思うのも仕方無いだろう。
そんな風にカリオストロは定義付け、カルデアのサーヴァントとして報告の義務を放棄した。勿論、誰かがそれに気付いたとして彼はきっと口八丁で乗り切る事だろう。誰も藪蛇を突こうとは思わない。
何よりも─
「うーん、今日は和食の気分だからB定食かな」
「では私はフレンチのAを」
「あ、今日のスペシャルA定食フレンチなんだ。いいなぁ、バゲットにパテ塗って食べるのアレ美味しんだよね。うわ、しかもローストビーフとか付いてる」
「宜しければ一口如何です?」
「いいの!じゃあ俺の卵焼きと交換でいい?」
「ええ、構いませんとも」
存外藤丸立香をどうこうしようとは考えていないようだった。一サーヴァントとして意外にも大人しく振る舞っている。あるいは嵐の前の静けさか。審議の程は定かでは無いが、サーヴァントとしてある程度の領分は弁えていた。
勿論、藤丸立香が彼の興味の対象である事には変わりはないのだが…。
トレーに乗せた食事を机に置き、二人は隣り合って座る。
一瞬、数人のサーヴァントがカリオストロへ向けて剣呑な視線を向けたがそんなものなど何処吹く風。ここがまるで高級レストランの一角とでも言いたげに優雅な所作で彼は目の前の肉を切り分ける。未だ血の滴る肉をフォークに刺すと、藤丸へ向けてそれを恭しく差し出した。
「陛下、口をお開け下さい」
「……え?」
ニコニコと何時もの笑顔を貼り付けて差し出されたソレに藤丸は硬直し、女性サーヴァント数人の視線が一斉に二人へと向けられる。先程まで和気藹々としていた空気はカリオストロの発言1つで一変し、途端可笑しな空気が流れ始めた。嘘でしょあの男まーちゃんにあーんしようとしてるの、姫だってやった事無いのに?!と何処からかそんな声すら聞こえてくる。その様子に当のカリオストロは愉しげに笑みを深まるばかりで、藤丸に至っては摘んだ卵焼きをそのままに唖然としていた。
(え?待ってこれ、あーん?あーんってしてるの?え?ちょっと待って恥ずかしいんだけど!)
「じ、自分で食べれるからいいよ!」
「そう仰らずに、是非手ずから召し上がって頂きたいのです」
ずいっと眼の前に差し出されるフォークに思わず身体が後退る。(端から見れば)悪意の無い行為にどうしたものかと焦ったように藤丸は手で制した。からかわないで、と一言伝えれば済むのだがこのマスターは仮にも"伯爵"を受け入れたマスターだ。彼はまさしく優しさと順応性の塊である。誰に対しても優しく諭そうとするだろう。
であればこそ、詐欺師は図に乗ると言うものだ。
「いや、でもちょっと恥ずかしいし」
「…そう、ですか。どうやら私は陛下のご厚意に甘えていたようだ。申し訳ありません、出過ぎた真似を致しました」
(う…、シュンとした顔させちゃった)
「出過ぎた真似だなんてそんな、それに嫌な訳じゃないし…」
「そうですか!では此方改めて、陛下あーん」
わざわざ言い直すあたりこの男は分かっててやっている。何なら周りの女性サーヴァントを煽ってすらいるのかもしれない。吐息を込めた声色に藤丸は余計な羞恥を促され、いよいよ近付いてくるフォークとカリオストロを突っ撥ねる事が出来ない。嫌じゃない、なんて言ってしまった手前逃げる事すら叶わなかった。うぅ…と唸りながらも仕方なく口を開けば放り込まれる肉の塊、咀嚼する藤丸の頬はほんのり染まっている。
「お味は如何ですか」
「お、おいひいです…」
(味なんか解んないんですけど!?)
最早何を食べているのか分からないと、口にした食事を楽しむ事すら出来ずに飲み下す。そんな憐れなマスターの感情に舌鼓を打つカリオストロは未だ物足りなそうに藤丸を見つめた。もしここに何処ぞの陰陽師が居れば人の心を喰らう化生の類と揶揄することだろう。実際彼は食事よりも内側の残響にしか興味が無かった。マスターの羞恥と幾ばくかの混乱、出来得るならもっと混沌とした情念を見てみたい、と。
幸いにも今迄の幸運判定…もとい献身によってマスターの心はカリオストロへと傾いていた。不信感は拭えずとも最初の様な嫌悪感は今では見る影もない。いや寧ろもっと"情熱的な感情"さえ向けられている。
見ての通りほんの少し突くだけでこの有り様。我がマスターながら随分と悪趣味でいらっしゃる、などと他人事の様に嘲笑う男は自然と藤丸へ身を乗り出した。
何?と首を傾げる藤丸へ答えるように彼は薄く口を開ける。
「次は私が頂いても宜しいでしょうか?」
「つ、あ…え?」
目を白黒させながら開いた唇へ瞳が吸い寄せられる。艶のある唇から覗く赤い舌、垣間見た伯爵の内側に心臓がドキリと跳ねた。
(今度は俺が食べさせる…ってコト?!!)
ぶわっと心の内に熱が籠もり、明らかな戸惑いを見せ始める。想定していなかったであろう事態にまたしても藤丸は固まってしまった。そう言えば卵焼き上げるって言ったなぁ、と呑気な自分の言葉が脳裏に過る。しかし、それがまさか食べさせ合いに発展すると思いも寄らなければ、カリオストロがそんな行為を求めるとも思わなかった。勿論コレは全てマスターの心を掻き乱す為の行為なのだが、それを藤丸が知ることは無い。困惑し混乱し、そして余りにも蠱惑的な唇に視線を奪われるのみだ。
「陛下、この身が(栄養を)欲しているのです。どうか私の中を満たして頂けませんか」
「あ、う、わかっ、りまし…た」
(なんか凄くエッチな言い方された気がするぅ!やだもうこの人!)
今にも手で顔を覆いたくなる衝動を抑え、だし巻き卵を箸で掴む。何なら若干手が震えているが、そこは出来れば見ないで欲しいと無駄な祈りを捧げる。卵を持ってカリオストロへ向ければ、個性の塊の様な見た目を打ち消す程の顔面宝具がそこにはあった。絶対不可避なこの状況で真正面から対人宝具を受けるのは自殺行為でしかなく、バチリと合わさる視線に顔はみるみる朱に染まった。
その美しい顔が、唇が卵へと近付き一口パクリと咀嚼する。まるで見せ付けるようにゆっくりと口が動き、喉が妙に厭らしく嚥下をする。赤と緑のオッドアイが幸福に細まり、名残惜しそうに唇をちろりと舐めた。食す、と言う行為だけでどうしてこうも卑猥に見えるのか。もしくは自身の目が可笑しいのか、と藤丸は自分の視力すら疑い始める始末。惚れた弱みとは言うものの相手が相手なだけ認めたく無い気持ちが大きかったが、コレはもう認めざる得ないだろう。
「大変美味でした。ご馳走様です陛下」
「い、いえいえ此方こそご馳走様です(?)」
自分でも何を言っているのか、何に対してのご馳走様なのか。脳内セルフツッコミを繰り出しながら、残りのご飯の味など最早藤丸は分からなくなっていた。
片や藤丸の脳内の混乱ぷりに笑みを浮かべる伯爵は、満足行ったとばかりに先程とは打って変わって早急に食事を片付けて行く。普段であればゆったりと食事を愉しんでいる筈だが、この時ばかりはそうも言ってられなかった。
それは何故か、周りを見れば単純明快。一部の藤丸ラブ勢の女性サーヴァントがカリオストロを睨んでいるからで。少々煽り過ぎましたかな?と事が起こる前に早々に退散しようとしているからであった。まさに世紀の大詐欺師、引き際というものを弁えている。しかもこの後は三騎士クラスの周回要員に選ばれている、ここで面倒な魔力を消費するのは愚策だった。
料理の味に舌鼓を打ちながら、さて次はどうしようか、なんて悪戯心は忘れずにいた。
『秩序に死を、遍く世に混沌を』
魔力の渦が辺りを呑み込み敵は塵も残らず消え去っていく。
最初の内はそれこそ目に悪い宝具だと思ったものだが、今ではこれはこれで格好良いなと思う辺り大分毒されて来ていると思う。しかしこれが彼の心象風景の模倣だと言うのだから、本当に何を考えているのか分からない。あるいは分からない方が良いのかもしれない。
そんな事をぼんやりと考えながら藤丸達は最終WAVEへと進んでいた。
場所は西新宿であいの交差点、現れ出たるのは巨大な鳥ロック鳥。黄金釜と言う貴重な素材を求めてアルトリア・キャスター、徐福、カリオストロのメンバーはこの巨鳥の尽くを刈り取っていた。
【我はアシャラなり】
足りないNPをスキルで補い今一度世界に混沌を齎す宝具を解放する。禍々しい渦に飲まれるエネミーはそれでも打ち倒すには些か火力が不足していた。そこへアルトリア・キャスターと徐福の追撃が入る。二人のやけくそ気味な、ええい!!だのうりゃーだのと周回に対しての鬱憤が混じった素殴りを受けてロック鳥の体は崩れ落ちた。
「お疲れ様皆」
「勝ちました。じゃ、そういう事で。そそくさー」
「ああ、鐘の音が聞こえる…」
「勝利です。ご満足いただけましたか?」
三者三様に藤丸に向き直るが、その顔には疲労が滲んでいる。その表情に罪悪感を抱きながら、藤丸はロック鳥へと視線を移す。その側に肝心な素材は落ちてはいないようだった。その様子に思わず落胆と疲労混じりのため息が溢れる。
「えっと、ごめんね。もうちょっとだけ付き合って欲しいかな」
「もう、かーえーるー!」
「やだなぁ…」
「ははは、陛下は随分と仕事熱心でおられる」
アルトリアと徐福はもううんざりと言った表情で項垂れ始める。唯一余裕そうに見える伯爵も宝具の連続使用をさせているのだ、恐らく彼も見た目に反して限界が近い筈。無理をさせている実感はあったが、それでも後一つドロップしないかなぁと淡い期待を抱いてしまう。せめてドロップUPの概念礼装かもう少し効率の良い場所があればなぁと、有りもしない高望みすらし始めた。そんな呑気な事を考えているからだろうか。自分たちの後ろで蠢く影の存在に咄嗟に反応が遅れた。
「キィーー!!?」
けたたましい叫び声が響き渡る、それは紛れもなく倒した筈の巨鳥の鳴き声で。まだ息があったのか、身構える余裕もなく激昂したその鉤爪はマスターへと襲い掛かる。巨大な猛獣の一撃は回避するには間に合わず、防御するには人間はあまりに非力過ぎた。
そして一息に鉤爪がその胴を引き千切り肉片と血飛沫が飛ぶ。誰もが死を連想したであろうその一撃に、しかし当の藤丸は無傷であった。代わりにその綺羅びやかな装飾と血を撒き散らしたのは誰であろう、カリオストロだ。
「ぐぅ…っ!いけませんねぇ、私も些か勘が鈍っているようだ。たかが獣如きに後れを取るとは…、ですがこれにて終幕と致しましょう」
構えた剣が巨鳥を貫く、その一撃を持って巨鳥の駆体は光の粒子となって霧散した。そして、何でも無かったかのように剣先に付いた血を篩い落とすとこれまた優雅な所作で振り向いた。
「我が陛下、お怪我」
「カリオストロ血が!!」
(まずい!直ぐにスクロールと礼装起動を!)
しかし、慌てた様子で駆け寄る藤丸にその言葉は遮られた。流石歴戦のマスターと言うべきか、慣れた手付きで回復用のスクロールを展開し直ぐに傷の治療が開始される。真っ赤に染まった胸元は霊衣もズタズタに破けており、あまりの凄惨さに藤丸は顔を歪めた。
その一連の動作にカリオストロはきょとんと呆気に取られるばかりである。何せ藤丸の行動は今まで見てきた魔術師とはあまりにも違い過ぎた。たかがサーヴァント一基の為にここまで心乱す者も中々いない。
そもそも実の所を言うと、とっくに傷は塞がっているのだ。それは決してサーヴァントだからではなく、元々彼が持ち合わせる超回復の賜物だ。血の付いた肌と引き裂かれた衣服の所為で大怪我を負っている様に見えるだけ。事実、攻撃の補助として付いてきていた徐福とキャスターは直ぐにその事に気付いたのだろう。必死な姿の藤丸とは裏腹に、疲労感からか少し脱力しているようにも見える。
「今すぐ治すから!」
(俺を庇ったから!こんな…っ!)
そんな二人に気付く様子もなく、貴重なリソースを惜しげも無く使い果たすマスターをカリオストロは興味深げに覗き込む。罪悪感と後悔、自身の無力さに遣る瀬無い思いが胸中を渦巻いている。そんなものただの一般人である彼が気にしても埒が明かないだろうに。
何よりこのままリソースを無駄に消費し続ければ後ろの二人から何を言われるか。カリオストロは藤丸を落ち着ける様に、幾分優しげな声で呼び掛けた。
「陛下、マスター落ち着いて下さい。もう傷は塞がっております」
「え…?でもこんなに血が出てる!」
(こんな怪我を負ってまで、そんな分かりきった嘘を付かなくてもいいのに)
けれど気が動転したマスターには、その声は別の意味として捉えられたようだ。突然破けた服の間に手を差し込んだかと思えば、開けた胸元の血を拭い始めた。コレには流石のカリオストロもおや?と驚きの表情を浮かべる。あの純情な少年がこれ程までに積極的に触れて来たのが初めてだったからだ。
きっと血を拭えばそこに痛々しい傷が広がっていると思ったのだろう。しかし、藤丸の考えに反してカリオストロの身体は本当に傷跡一つ残ってはいなかった。目の前に現れるのは美しい陶器のような白い肌のみだ。
「あ、れ?本当に治ってる…」
「ええ、我が身は不滅なれば」
「そ、そっか良かっ…、っ!?」
不意に藤丸の手が遠ざかる。どうしたのかと見やれば、その顔は耳まで真っ赤に染まっていた。
「あ、ご、ごめん!そんな、つもりじゃ…っ」
(おっぱ、む、胸にさわっ…、やっちゃったぁあ!)
やってしまったと言わんばかりに慌てふためき、その視線を逸らしてしまう。俯いた顔にはドッと汗が滲み出し、胸中の声は罪悪感から一変し羞恥と後悔に彩られる。酷く初な反応を示す主に、当然悪い笑みを浮かべるのは詐欺師の性か。
逃げようとする藤丸の手を掴み、カリオストロは自身の方へと引き寄せる。想定していなかった事態に足が縺れ、ものの見事に藤丸はカリオストロの胸元へ逆戻りしてしまった。再び訪れた筋肉とは思えない柔肌の感触に心臓が跳ね上がりそうになる。
「お待ちを、そのまま周回に戻るおつもりで?」
「え?あ…」
何の話かと自身の手元を見やれば、そこにはカリオストロの血がベッタリと付着したままになっていた。焦りのあまり汚れなど気にもしていなかった。未だ乾き切ってない血液を、カリオストロは何処から出したのか白いハンカチで拭い始める。しっかりと爪の先まで恭しく主の汚れを落としていく様は、まさに忠臣とも言える態度だ。実際忠義を誓っているかどうかは別としてだが。まぁそんな事は今の藤丸にはどうでも良かった、何故なら目の前に晒された胸元にその視線は釘付けだからだ。
無理矢理引き裂かれた服の間から覗く白い肌、こびり着いた血が何処か背徳感を誘っている様にすら見えて。何度も視線を逸らそうと努力しても、気付けば瞳はそこへと吸い寄せられてしまう。
血を失い少し冷たい肌の感触、疲れ切った頭の中に浮かぶのは何故だろう白くて柔らかい、そう雪見だいふく。いや何を言ってるんだと思われるだろうが、雪見だいふくみたいに白くて冷たくて触感がもちもちフワフワだったのだ。筋肉ってもっと硬くて重そうなイメージだったが違った、アレは雪見だいふくだった。語彙力と経験の乏しい脳みそがそんな結論を叩き出す中、初々しい藤丸の反応にカリオストロはこれはこれは、と笑みを浮かべる。
「陛下、そうまじまじと見つめられると些か気恥ずかしいのですが…」
「ぁえ、そ、そうだよね!ごめん気が利かなくて」
(うわぁあ、バレてる!そりゃそうだよね、あんなバッチリ見てたんだから!)
「いいえ分かって頂ければ結構。…しかし、先程から"何を"そんなに熱心に見ておられるのです…、陛下」
耳元へわざわざ顔を寄せ囁くように主に伺う。
握った手の甲をカリオストロの指先が這いずり、何かを誘うように吐息が頬を撫でる。思わぬ感触に藤丸の背筋はゾクリと粟立ち、邪な思いを見抜かれている事に気不味そうに目が泳ぐ。あ、とかえ、とか母音しか発する事が出来ない藤丸に追い打ちを掛けるようにカリオストロが瞳を覗き込んでくる。
「貴方の寵愛を受けたこの身、お気に召して頂けたのでしょうか?」
「あ、えっと、その…」
(か、顔近い!)
「ふふ、良いのですよ陛下。貴方の定義した私をもっと間近で見て触れて、そして感じ」
「ストーップ!!」
あと少しで主を懐柔出来る…と言う一步手前で待ったの声が掛かる。大声で二人の間に割って入ったのは誰であろう、アルトリアだった。彼女は二人の怪し気な雰囲気に僅かに頬を高揚させながらも、いや可笑しいでしょ!と至極真っ当な意見を言う。何なら先程から空気にされていたのも気に食わないし、女子二人いて何でそっちに行っちゃうの?!と少々不機嫌だ。
因みに徐福は薔薇色の世界を直視したくなくて、ぐっ様人形を抱きかかえて呪詛のようにもうやだぁと嘆いている。
「もうさっきから何やってんの二人共!特に立香ぁ!もう素材はドロップしたんだから帰還の準備をする!」
「え、あ!そ、そうだね、今日はもうおしまい!帰ろう」
「おやおや、随分と忙しない方だ」
小言を言えばキッと鋭い眼差しを向けられる。顔は確かに高揚しているがその瞳は真剣そのもので。強い意志が垣間見えるその視線に嗚呼と直ぐに合点がいった。そう言えば彼女も…
「あまり立香で遊ばないで」
「遊んでなどおりませんとも」
「嘘」
「はは、それこそ嘘やもしれない」
埒のあかない応酬に二人の間には沈黙が流れる。けれどそれも直ぐにマスターの号令に掻き消された。未だ納得いかないとむくれるアルトリアは、カリオストロを責めるような目で一瞥すると、さっさとマスターの下へと向かって行く。その後を着いて行くカリオストロの霊衣は何時の間にか編み直され、傷一つない美しい輝きを放っていた。その姿を視認した藤丸は何処かホッとした表情で駆け寄って来る。
「カリオストロ、さっきは庇ってくれてありがとう」
「いえお気になさらず、サーヴァントとして当然の事をしたまで」
「うん、でも無理はしないで欲しい」
なんとも難しい事を言うものだとカリオストロは笑う。
サーヴァントの命の価値などマスターとは比べるまでも無い、『ましてやその身は彼の復讐鬼が愛した星そのもの。それを、よもや畜生如きに明け渡すなど"勿体無い"。もっと然るべきタイミングで呆気なく奪ってこそ絶望は深く混乱は混乱を呼び、あの革命の熱狂を思わせる混沌が訪れる筈。』
…と、そこまで考えてカリオストロは嗚呼いけない、と首を振る。今はこの"役"では無かったと、まるで服でも着替えるようにその心の内を翻す。魔力を使いすぎた所為か、はたまたマスターの心に繋がり過ぎた所為か良くない記録が蘇ってしまった。今はまだ主の定義する己を演じねば、そう今はまだ欺瞞を欺瞞で覆い隠そう。それこそがプリテンダーにしかなれぬ男の役割なれば。
「カリオストロ?どうしたの?」
「嗚呼いえ、少々目眩が」
「大丈夫?戻ったら直ぐにダ・ヴィンチちゃん達に見て貰おう」
「彼の天才を煩わせる程の事ではありませんとも。少し魔力が不足しているだけです」
目の前で急にフリーズしたカリオストロに藤丸は首を傾げる。甲斐甲斐しい主の反応に何でも無いように微笑んで"藤丸立香のサーヴァント"を演じる。蠱惑的に歪む口元は主の求める言葉を用意するのみだ。
「そこでご相談なのですが、陛下。魔力供給にご興味は」
そこまで言った所でアルトリアの杖がカリオストロの尻をぶっ叩いた。いい加減にしろーー!!と響き渡る怒号に彼はただ主に向ける微笑みだけを携えていた。