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    mee30232362

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    mee30232362

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    君はもういないーーカランコロン

    と、扉に設置されたドアベルが来客を知らせた。
    閉店までは残り30分程。
    陽は沈み、辺りが暗くなり始めた頃だった。空には一番星が輝いている。





    あまり詳しくは聞かなかったが、この未来にはやはり「野乃はな」が存在する。考えてみれば当然の事だった。あの時代と今は、数十年しか違わない。


    『 輝木ほまれ 』


    未来に戻ってしばらく経ち、ようやく落ち着いた頃にその名前を検索してみた。

    そんな事をしても無意味だとは分かっていた。
    調べてみた所でどうしようもないと。
    今此処にいるほまれは、プリキュアにならなかった『ほまれ』だ。

    ーー『ほまれ』は俺の事を知らない。

    出逢えた所で辛くなるだけだと分かっていても。それでも衝動を抑える事は出来なくて。ただ彼女の今を、知りたかった。


    ほまれの記事はネットでもすぐに見つかった。
    天才フィギュアスケーターとして将来を有望視され、ジュニア大会の優勝、日本大会の決勝など国内外の記事問わず多く出てきた。
    でも、それはある時点でパタリとなくなる。
    時系列順で最後になる記事は、ジャンプ失敗で優勝を逃した記事。
    素人の調べ物だから確実ではないが、以降は大会のエントリー記録もない。
    そこで消息は完全に途絶えた。

    でも、『輝木ほまれ』が存在する事実を知った。



    そして、ただ虚しさだけが胸に残る。


    あんなに帰りたいと願った、アスパワワが溢れて笑顔に満ちた未来。
    取り戻したかったこの場所に、俺はいる。

    それなのに。


    心にぽっかり穴が空いたみたいな喪失感。
    それが何か、俺は知っている…と思う。





    「いらっしゃいませ」

    声を掛けて、ハリーは持っていた端末をオフにして立ち上がる。

    「まだ、お店開いてますか?」
    「空いてますよ」

    言って店の奥から顔を出す。

    「ゆっくり見てって下さ…」

    いつも通りの営業スマイル。

    でもその客の顔を見て、それ以上の言葉が出なかった。心臓がドクンと脈打つ。

    すらりと伸びた手足にスタイルの良さが服の上からでも分かる。綺麗な黄色の長い髪。年齢は40歳近い…はずだが、そうは見えない。けれど、上品に歳を重ねたであろうその人。
    その顔には、見覚えがあった。
    忘れるはずがない。
    どれだけ歳をとっても、間違うはずがない。


    「…ほまれ」


    小さく呟く。

    「え?」

    彼女は不思議そうにこちらを見ていた。

    「・・・・・?」


    ーー違う。


    彼女は『輝木ほまれ』かもしれないけれど、俺の知っているほまれじゃない。

    「あ…えーと…いえ、すみません…」

    ハリーはあわてて笑顔を取り繕う。

    「すみません。ゆっくり見ていって下さい」
    「…ありがとう」

    彼女は少しだけ不思議そうにこちらを見てから、店内に目をやる。


    ビューティーハリーショップは、女の子の憧れが全て詰まったお店。
    ほまれが内装や仕入れ商品をアドバイスしてくれて、オシャレになった店。ほまれなら何を置くか仕入れるか、あのキラキラした時代を想像して再現した、少し時代を遡ったレトロ可愛いお店を目指した。
    あの一年を、忘れたくなくて。もう一度、今度はこの時代で店を開いた。

    「可愛いお店ですね」

    服を見ながら彼女が話し掛ける。

    「でしょ。カフェスペースも併設してるんで、良かったら今度はお茶でもしに来て下さいね」

    ハリーは営業トークで笑い掛ける。
    静かな時間だった。緊張で変な汗が出る。自分の心音が妙に煩く響く。

    「何だか懐かしい気がして、思わず入ってしまったの。店長さん、思ったより若いからびっくりしちゃった」

    笑って、けれど伏せた瞳は揺らいでいるように見えた。
    少しだけ考えて。言い辛そうに彼女は口を開く。

    「こんな事言うの、変なんだけど…」

    彼女はハリーを真っ直ぐに見た。


    「私…貴方に、
     …何処かでお会いした事があるかしら?」


    その言葉に、時が止まったような衝撃を覚えた。


    何処かって、何処だ?

    この時代の『ほまれ』は、絶対に俺を知らないはずだ。
    もちろん俺も中学生のほまれしか知らない。

    知っていると答えて、タイムスリップした事を話したら…彼女は何と言うだろう。


    真っ直ぐに気持ちを伝えてくれたほまれ。
    あの時代で、俺を支えてくれた希望だった。

    そんな彼女を俺は、傷付けるしか出来なかった。



    本当は、
    そんな貴女が、

    好きでしたと、今伝えたらーー。




    ハリーはぎゅっと拳を握る。


    「たぶん、お会いした事はないと…思います」


    笑って、嘘を吐いた。
    彼女にしてみれば嘘ではないけれど。

    「そうですよね。すみません」

    彼女は困ったように笑って、ハリーに答えた。
    口元に添えた左手には、薬指の指輪が光る。
    白のダイヤは、彼女の誕生石だ。

    「娘の服を買いに来たの。オススメはあります?」

    再び彼女は店内に目をやる。
    あっと呟いて、手に取ったのは星の模様がワンポイントにあしらわれたクリーム色のワンピース。少し大人っぽいデザインが、ほまれに似合いそうだと思った。

    ハリーは小さく深呼吸をしてから彼女を見た。

    「そちらのワンピース、オススメですよ。今なら開店セールで30%オフのお品です」


    いつも通りの接客を心掛けて、ハリーは笑う。


    ーーもう君は何処にもいない。


    笑顔で自分の気持ちに蓋をする。




    隠し事は、得意だから。






    End***








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