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    mee30232362

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    mee30232362

    ☆quiet follow

    おかえり寒い冬の大晦日だった。
    薫子は大海渡の自動車に揺られて、久堂家の本邸へと向かう。


    自分の裏切りのせいで、対異特務小隊の仲間を危険に晒した。
    大切な友だちを『失った』。
    否、元より友だちと呼ぶことすら許される立場ではなかったのだ。

    罰は受ける。
    死刑も覚悟の上だった。


    …でも。
    それはなかった。


    無罪放免とは勿論行かないが。
    そればかりか、大海渡と清霞の姉ー葉月の計らいで、美世や清霞と会う機会を設けてもらった。
    勿論断る事も出来たが、彼女に会いたかった。
    美世に、清霞に、会って謝罪をしたかった。

    謝って許されるとは思っていない。
    許してもらわなくても構わない。



    …でも。

    美世も清霞も、その場の全員が暖かく迎えてくれた。
    申し訳なさでいっぱいで、居た堪れないけれど。

    この2人には…美世と清霞には、
    それが当たり前なのかもしれない。

    優しい2人だから。
    やっぱり、美世には叶わないーー。









    美世に手を引かれ、立食が始まった。
    いつもなら、当たり障りなく色々な人に話しかけて過ごすが。
    今日はそんな気分にもなれなくて、ひとりでいる事も多かった。
    それが許される場所だった。

    美世が気にかけてくれて時折話をしたりもしたが、さすがにずっと隣に居る訳にもいかない。
    彼女は久堂家当主の婚約者なのだから。

    薫子はひとり、美世と清霞の後ろ姿を見送る。


    コツン、と頭を小突かれて後ろを振り向く。

    「五道さん…」

    振り向けば、ひらひらと手を振る五道の姿。
    退院おめでとうございます、と小さく呟く。

    「五道さんにも、ご迷惑をお掛けしました。申し訳ありません」

    頭を下げて、目を伏せると。
    はぁ、と短く溜息が降って来た。

    「俺は何も。謝ってもらう筋合いもないし。
     もう、いいんじゃないの?許されたって訳でもないけど、みんなお前に同情してる」
    「・・・・・・」

    薫子が頭を上げると、五道はまっすぐにこちらを見ていた。

    「誰がお前の立場になってても、おかしくなかった」

    五道は言うが、たぶん違う。
    彼が自分の立場なら、もっと上手く立ち回る事が出来たはずだ。
    自分と彼では、場数や経験、能力が違う。
    だから選ばれたのは自分だったのだと、思う。

    「でも、俺は美世さんを危険に晒したお前を許さないし、絶対に忘れない」

    これが、当前の処遇なのだ。
    薫子が目を伏せる。

    「俺が、怪我をしていなければ、立場は逆だったかもしれない…とも思う。俺がもっとしっかりしていれば…、」

    言いかけて、五道は一旦口を噤む。


    ・・・・・・。


    ややあって、もう一度口を開いた。

    「隊長程頼りにはならないかもしれないけど。
     もうほんの少しでいいから、俺の事も頼って欲しい」

    言って、俯いたままの薫子の頭をぽんぽんっと優しく叩いた。
    驚いて薫子が思わず顔を上げれば、五道はいつもの笑顔とは少し違う、少し硬い表情を見せた。

    「何かあったら必ず、俺が陣之内を守るから」

    真っ直ぐに薫子を見る五道と目が合う。

    「やっと俺の事を見てくれた」





    五道が笑う。
    いつもの笑顔。優しい、笑顔。

    「おかえり」






    End***










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