おかえり寒い冬の大晦日だった。
薫子は大海渡の自動車に揺られて、久堂家の本邸へと向かう。
自分の裏切りのせいで、対異特務小隊の仲間を危険に晒した。
大切な友だちを『失った』。
否、元より友だちと呼ぶことすら許される立場ではなかったのだ。
罰は受ける。
死刑も覚悟の上だった。
…でも。
それはなかった。
無罪放免とは勿論行かないが。
そればかりか、大海渡と清霞の姉ー葉月の計らいで、美世や清霞と会う機会を設けてもらった。
勿論断る事も出来たが、彼女に会いたかった。
美世に、清霞に、会って謝罪をしたかった。
謝って許されるとは思っていない。
許してもらわなくても構わない。
…でも。
美世も清霞も、その場の全員が暖かく迎えてくれた。
申し訳なさでいっぱいで、居た堪れないけれど。
この2人には…美世と清霞には、
それが当たり前なのかもしれない。
優しい2人だから。
やっぱり、美世には叶わないーー。
美世に手を引かれ、立食が始まった。
いつもなら、当たり障りなく色々な人に話しかけて過ごすが。
今日はそんな気分にもなれなくて、ひとりでいる事も多かった。
それが許される場所だった。
美世が気にかけてくれて時折話をしたりもしたが、さすがにずっと隣に居る訳にもいかない。
彼女は久堂家当主の婚約者なのだから。
薫子はひとり、美世と清霞の後ろ姿を見送る。
コツン、と頭を小突かれて後ろを振り向く。
「五道さん…」
振り向けば、ひらひらと手を振る五道の姿。
退院おめでとうございます、と小さく呟く。
「五道さんにも、ご迷惑をお掛けしました。申し訳ありません」
頭を下げて、目を伏せると。
はぁ、と短く溜息が降って来た。
「俺は何も。謝ってもらう筋合いもないし。
もう、いいんじゃないの?許されたって訳でもないけど、みんなお前に同情してる」
「・・・・・・」
薫子が頭を上げると、五道はまっすぐにこちらを見ていた。
「誰がお前の立場になってても、おかしくなかった」
五道は言うが、たぶん違う。
彼が自分の立場なら、もっと上手く立ち回る事が出来たはずだ。
自分と彼では、場数や経験、能力が違う。
だから選ばれたのは自分だったのだと、思う。
「でも、俺は美世さんを危険に晒したお前を許さないし、絶対に忘れない」
これが、当前の処遇なのだ。
薫子が目を伏せる。
「俺が、怪我をしていなければ、立場は逆だったかもしれない…とも思う。俺がもっとしっかりしていれば…、」
言いかけて、五道は一旦口を噤む。
・・・・・・。
ややあって、もう一度口を開いた。
「隊長程頼りにはならないかもしれないけど。
もうほんの少しでいいから、俺の事も頼って欲しい」
言って、俯いたままの薫子の頭をぽんぽんっと優しく叩いた。
驚いて薫子が思わず顔を上げれば、五道はいつもの笑顔とは少し違う、少し硬い表情を見せた。
「何かあったら必ず、俺が陣之内を守るから」
真っ直ぐに薫子を見る五道と目が合う。
「やっと俺の事を見てくれた」
五道が笑う。
いつもの笑顔。優しい、笑顔。
「おかえり」
End***