楓可不『消えない』 背後から身体を貫くような衝撃。あの小さな身体のどこに、楓を突き飛ばすだけの力が眠っていたのだろう。
突き飛ばされ、ドアの隙間をすり抜けるようにコントロールルームから転がり出て。心臓が激しく暴れているのは全力で走ったからというだけではない。全身に酸素を送り出そうと拍動してもなお停止した脳では、何が起こったのかすぐには理解できなかった。
主任、と楓を呼び無事を確認した生行が完全に閉じたドアに向かって可不可の名を呼ぶ。返事のないドアに手を当てた幾成が眉をほんの数ミリ顰めて首を振る。
じわり。倒れ込んだ時についた手や擦りむいた傷の痛みがようやく伝わる。心臓の音が煩い。耳鳴りのように思考を邪魔されている。行かなきゃ。
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