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    鹿羽🦌

    パロ多め

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    鹿羽🦌

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    初のキバユウ小説
    わりと長い

    ダンユウはミリもありません

    ネーベルの指輪

    #キバユウ
    snowflake-shapedFamilyCrest
    #ダンユウ
    danyuDynasty

    「…参ったな。」

    思わず昔の人のようなリアクションをしてしまったが、事実参っていることに変わりはない。
    現在時刻は夜の12時。場所はワイルドエリアの中央くらい。
    予報にもあった通り、数年に一度のレベルで濃霧が酷いので今夜はここでキャンプしようと思っていたのだ。
    今にも眠気に喰われてしまいそうな彼らにも申し訳ないが手伝ってもらって、たった今、テントが張り終わった。
    普段ならもう寝ている時間。その場でぐでぐでし始める彼らに癒されていると、スマホロトムが長く震えた。

    そして今に至る。
    あの時と同じだ。カンムリ雪原の時と同じ。
    急に電話を寄越したと思ったら今すぐ来いとお呼び出し。なんなの。誰だと思ってんの今のチャンピオンは。

    果てしなく遠くまで包む白い霧と雨の後の露に濡れた草花の青臭さが滞っている。あいにくここではタクシーは呼べないし、ナックルへの方向もよく分からない。
    せめてエンジンの橋が見れれば楽なのだが、世の中そう簡単にいくものか。
    流石濃霧。本当に何も見えない。
    なんなら四方八方に全く同じ景色がある。普段の霧とレベルが違う。今で言うれべちだ。

    「…参った…」

    本日二度目の参っただ。これだけ降参してるんだからそろそろ助けの蜘蛛糸でも垂らしてくれていいと思う。
    嫌がったり熟睡し始めた彼らをボールに入れて、リュックを背負い直す。
    とりあえず歩こう。歩くしかない。
    常にマップを表示させながら、ただ歩くのみ。
    なるべくダンデさんを困らせないように、早めに。
    でもあの人だって道迷って恐ろしく遅刻したことあるから、あまり気に病まずに。
    幼い頃、ホップと夜更かししてゲームしたことを思い出しながら、夜の湿った厚ぼったい空気を踏みしめていく。

    ふと、冷たい風が首筋を撫でた。後ろからだ。
    あまりに寒くて一気に鳥肌が立った。嫌な予感がする。野生のポケモンのような匂いだ。
    ボールの中はもうおねむの子達ばっかり。ここで叩き起こすのは流石に可哀想。
    しかしここはワイルドエリアだ。もしキテルグマなんて現れたら肋骨逝去どころの騒ぎじゃない。まさに死ぬしかないじゃない。残酷なことにその可能性だってなくはないのだ。
    くそう霧なんて舐めていたぜ。なんならちょっとレアな野生に会えるからって頻繁に通ってたけどこんなに怖いものだったとは驚いた。
    みし、と地面が重く沈んだ音が響く。真後ろからだ。
    また涼しさを通り越した吹雪が首筋を掠めて、とうとうおしまいだと思った。
    野生のポケモンだ。仕方なくボールを構えた時、自分の頭からは随分上の方で、人の声がした。

    「よお嬢ちゃん。乗ってく?」
    「…え、キバナさん?」

    そこにはフライゴンに乗ってふわふわと空中を漂うキバナさんがいた。
    あの冷たい風はフライゴンの羽ばたきだったのか。

    「えってなんだよえって。」
    「あ、すみません。」

    なんでこんなところにいるんだろう。
    肝心なことを何故かほっぽり出したまま、気づいたら腕を引かれ、気づいたらフライゴンの背中に乗せられていた。
    掴まっておけと言われて、ふざけてパーカーの紐をぎゅっと締めたら馬鹿野郎と怒られた。

    「私重いですよ、大丈夫ですから。」
    「平気平気。」
    「えぇ…ごめんねフライゴン。」

    へっちゃら!みたいな顔をするフライゴン。そのまま急上昇して、霧の中を飛んでいる。
    こんなに飛んだのに景色はまだ白んでいる。相当厚いんだな。だからトレーナーもいなかったのか。

    「で、どこまで?」
    「バトルタワーの最上階までお願いします。」
    「は?遠いな。」
    「なんでキレたんですか…ダンデさんから呼び出しです。」
    「うわ何したの。」
    「何もしてないです。なんならスタートーナメントの時と同じテンションでした。」
    「元気だなあいつ…」

    …まぁ、確かに元気だったけど、ちょっと声が強張っていたような。いつもの調子というよりは、なんだか緊張してるみたいな。よく分かんないけど、なんとなくいつもと違うような気はした。
    今になってすまないとか初めて言われたし、分かりましたって応えたらしきりに喜んでたし。
    バトルするのかなぁ。明日に変更出来ないかなぁ。

    「こんな遅くまで何してたの。」
    「今日は野宿しようと思って…キバナさんこそ何してたんですか。」
    「あー…散歩。」
    「フライゴンの?」
    「そー。今日はチャレンジャー来なかったから元気有り余っててさ。寝てくれねぇんだ。」
    「それにしてもよくこんなところまで来ましたね。ナックルから結構離れてるのに。」
    「まぁワイルドエリア周回は仕事みたいなもんだし。」
    「へぇ。流石トップジムリーダー。」
    「からかうんじゃないよ大人を。」

    ユニフォーム姿で出歩くなんて相当珍しいんじゃないのか。これはレアなタイミングかもしれない。
    今日は特にめぼしい捕獲はなかったから、まぁ、これで相打ちにしておいてやろう。

    「…お。」

    スマホロトムが震える。
    今度は短い。メッセージだ。

    「何?」
    「ダンデさんからメッセージ。少し遅いけど大丈夫か?だって。」
    「こんな夜中に呼び出した奴のセリフじゃねぇな。」
    「ははっ!本当!」
    「寛容なキバナ様の送迎付きで向かってますって返事しとけ。」
    「えっとキバナさんの…」
    「抜けてる抜けてる。」

    だらだらと喋って、他愛もない話をする。街で会った時と変わらない時間。
    このまま少しお茶でも出来れば良かったんだけど、なんならこうやって偶然会うことも少ないからもっとゆっくりしたいんだけど、そうはいかない。

    次会えるのはいつになるんだろうか。
    そう思っていた時だった。

    「ユウリ。」
    「はい?」
    「手ぇ出してくれ。」

    言われるがままパーカーの裾を摘んでいた左手を差し出す。
    指に金属の感触がついた。

    「わ…これ、指輪ですか。」
    「うん。」

    離された手につけられたもの。銀色のドラゴンの頭が付いている指輪だった。
    リングの部分は二本の尻尾が絡まり、一本の指を二匹が支えるようになっている。
    装飾がドラゴンなだけにデカくてゴツい。でもお洒落だ。こんなセンスの塊のようなもの、服装に無縁な私には勿体無い。
    個人の感想だと自分はあまり似合わないけど、彼が持つ褐色の大きな掌にはぴったりハマりそうだ。
    急にどうしたんだろうとも思ったし、いつもこんなのしてるんだとも思った。

    「やる。」
    「え?」
    「あげる。」
    「おわ…こんなに高そうなの貰えませんよ。」
    「安物だしいいよ。」
    「えぇ…」
    「今度のお茶代で許してやろう。」

    私が何言っても、いつもキバナさんが払うのにな。それすら出来ないのにな。

    「次はもっといいのあげるから。」
    「え?」
    「冗談。」

    冗談にしては笑えない。私に金を貢いでどうする。
    もうこの段階で私をチャンピオンの座から引き摺り下ろそうと狙っているのかこの人。怖。

    「変な虫つかないようにしないとな。」
    「…ん?なんですか?」
    「なんでもないよ。」

    風が強くなってきた。
    フライゴンの安定感はバッチリだがやっと霧も晴れる。うまくワイルドエリアを抜けたらしい。
    流石ドラゴンストーム。霧にも対策ばっちり。天候チキンレース。

    「じゃあオレさま、ここで降りるから。」
    「んぇ?」
    「よっと。じゃあな!」

    待って
    ここ空、

    「キバナさん!?キバナさん!!」

    柔らかく穏やかに微笑んで、彼はフライゴンの背中から飛び降りた。
    いつも通り、あの笑顔で。
    死んだような目を隠して。

    「キバナさん!!!」

    上空から十メートルは優に超えている。こんなところから落ちて、無事で済むはずがない。

    「フライゴン!!キバナさんが、」
    「ふりゃ。」

    私のものだけの背中になったフライゴンはふるふると首を横に振った。
    心配する素振りを見せない。心配するなと言っているような瞳が見えた。

    「っうわ!」

    ぐん、と勢い良く先へ進む。
    背中に掴まるのがやっとな私に構うこともなく、フライゴンは音もなく風を切る。勇者が振る剣のように鋭く、大きく羽を広げる。
    空気の抵抗が凄まじい中、その甲斐あってあっという間に霧を抜けた。

    「ふりゃー。」

    突然急停止すると、首を傾げて下の方を見る。見ろ、とでも言いたげだ。
    ジムリーダーともなると人間との会話も容易く出来るようになるのか。

    あんまり体を傾けると落ちてしまう。おっかなびっくり下の方を見れば、少し向こうの原っぱにてくてくと歩いている人を見かけた。
    ここからじゃあ分かりづらいが、頭がオレンジ色だ。キバナさんのヘアバンドだろう。
    生きてる。
    なんで助かったかは後に問い詰めるとして…これが常習犯なのは頂けない。
    キバナさんもフライゴンもやけに手慣れているし、こんな荒技どこで身につけたんだか。

    「ふりゃあ。」

    どんなもんだい。左の口の端が上がったフライゴンが、そう言いたげに私を見つめている。
    その瞳がやけにキラキラしていて、叱るに叱れない。注意を促すことも咎められる。

    「…あんまりご主人を危ない目に遭わせるんじゃないよ。」
    「ふりゃぁ〜。」

    なんだそれご主人の真似か。
    語尾をぐでっと伸ばして生返事をするフライゴンに、そういえばこの子どうすればいいんだろうと疑問が浮いた。
    乗用車借りたかったのにタクシー借りてきちゃったみたいなノリだ。これマズいぞ。フライゴン、キバナさんの場所分かるのかな。

    ちょうどメッセージが飛んできた。キバナさんからだ。
    開きっぱなしにしてあったメッセージ欄は勝手にキバナさんの履歴を押して、内容を開いた。

    『その子の心配はいらないぜ。降りたらオレさまの所に帰ってくるよう言ってある。』

    …どこから見ているんだろう。ストーカーばりのタイミングの良さだ。

    見えもしない視線に夜のワイルドエリアよりも恐ろしい肌寒さを感じながら、シュートシティに映し出される広告の光をぼんやりと眺めた。
    銀色の龍は月に照らされて青く光っている。



    この後ダンデさんが告白する予定だけど指輪の話し始めたユウリに怖じ気づくダンデさんまでが流れです
    書く気力は無いです


    終末
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