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    hoshina0018

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    hoshina0018

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    初詣でおみくじを引いた主福 アンニュイ

    #主福
    #RotR

    牡丹雪の彼 綺麗に折りたたまれた小ぢんまりとした紙の封を解く。薄く肌触りの良いそれを縦に広げてみると、大きな文字で『大凶』の文字が目に入った。
    「………………」
     このおみくじを引いた男は、まさか滅多にお目にかかれない大凶を引くとは露ほど思わず、逆に運が良いのではないかとすら思った。
     しかし内容を読んでみると、やはりどれもこれも喜ばしくない事が書かれている。ここまで悪い事しか書かれていないと、流石に神を信じている訳では無い隠し刀でも良い気はしない。
     
     何も言わずただ、じっ…と佇んでおみくじを見ていた彼の様子が気になり、後ろからそっと覗いて見れば、今まで見たことのない結果の中身に、これが原因で落ち込んでいるのだと考えた福沢は、相手の肩に慰めるように優しく手を置いた。
    「そう落ち込まないでください」
     自分から初詣に誘った手前、嫌な思い出として残らぬよう励ましの言葉をかける。
    「……お前はどうだったんだ?」
     訊かれた福沢は握っていた手を開いておみくじを広げると、隠し刀とは真逆の結果だった。
    「……大吉か……良い事しか書いてないな」
    「ええ。大吉の中でも珍しいような気がします」
     今年はいい年になるな、そう言って大凶のおみくじを枝に結ぶ姿を見て、
    「…………僕と一緒にいれば運が相殺されるのではないでしょうか」
     つい、胸の内にくすぶっている想いが、ぽろりと口からこぼれでた。
     さり気なく、何度も彼に想いを伝えているのだが応えてくれた事は一度もない。
    「………………そうだな」
     ――ほら、言葉では肯定しているものの、この間が、声色が、拒絶している。優しくて冷たい。まるでふわふわとゆっくり舞い落ちてくる、牡丹雪のような彼。
     『好き』とはっきり言葉にしたら消えてしまいそうな雰囲気が彼にはあって、曖昧な関係がずっと続いている。僕の想いを知っているにも関わらず、受け入れる事は決してしない。
    しかし、こうやって何かに誘えば必ず付き合ってくれ、困り事があれば真摯になって共に考えてくれる。今回だって、他の人との飲みを断って来てくれたようだった。
     嫌いな人にはしないであろう、思わせぶりな態度な分、想う心の置き場所が定まらない。
     だから、たまに、彼の心が何処にあるのか確認するような言葉を投げかけてしまうのだ。今のところ何処かわかったためしはないが。
     
     お前の幸運を奪い取ってしまうのは忍びないから、そう言って、振り向きざまに見えた顔が、手のひらで溶ける雪のように儚い。
    「あなたが不幸になるくらいなら、運なんて要りません。…そもそも運だけで事を成すのは無理ですよ」
    「……それはそうだが、こんなご時世だ。運はあった方がいい」
    「…頑固ですね。……何があなたをそうさせているんでしょうか」
    「…………………………すべて…」
     言葉を選んでいるのか、暫しの沈黙のあと静かに口を開いた。
     ……すべてに決着がついて、まだ私を想っていてくれていたら、その時は――
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    zeppei27

    DONEなんとなく続いている主福のお話で、単品でも読めます。諭吉が隠し刀の爪を切る話。意味があるようでないような、尤もなようで馬鹿馬鹿しいささやかな読み合いです。相手の爪を切る動作って、ちょっと良いですね……

    >前作:黄金時間
    https://poipiku.com/271957/11170821.html
    >まとめ
    https://formicam.ciao.jp/novel/ror.html
    鹿爪 冬は、朝だという。かの清少納言の言は、数百年経った今でも尚十分通じる感覚だろう。福沢諭吉は湯屋の二階で窓の隙間から、そっと町が活気付いてゆく様を眺めていた。きりりと引き締まった冷たい空気に起こされ、その清涼さに浸った後、少しでも暖を取ろうとする一連の朝課に趣を感じられる。霜柱は先日踏んだ――情人である隠し刀とぱり、さく、ざく、と子供のように音の違いを楽しんで辺り一面を蹂躙した。雪は恐らく、そう遠くないうちにお目にかかるだろう。
     諭吉にとっての冬の朝の楽しみとは、朝湯に入ることだった。寒さで目覚め、冷えた体をゆるりと温める。朝湯は生まれたてのお湯が瑞々しく、体の隅々まで染み通って活きが良い。一息つくどころか何十年も若返るかのような心地にさせてくれる。特に、隠し刀が常連である湯屋は湯だけでなく様々な心尽くしがあるため、過ごしやすい。例えば今も、半ば専用の部屋のようなものが用意され、隠し刀と諭吉は二人してだらけている。
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